愛染 | ナノ




 深夜のバイトが終わって帰ってくると田沼はまだ眠っているみたいだった。まぁ、早朝だからあたりまえだろう。
 こっそりと寝顔を覗く。少し幼く見える田沼は、やっぱりイケメンだった。黙ってれば、彼女出来そうなのにな。なんて思いつつ、自分が相当気持ち悪いことをしていることに気付いた。友人だとはいえ、男の寝顔を覗き込むなんて気持ち悪いだろう。
 さっさとシャワー浴びて寝ようとベッドから離れようとした瞬間、背後から視線を感じて振り返った。そこには人形がいるだけで、何もいない。
 最近いろいろありすぎて、神経質になっているのかもしれない。それでも気分が落ち着かなくて、俺は人形を壁のほうへと向けて、着替えを持ってシャワーへと向かった。
 シャワーを浴びて戻ってくるとベッドの横に布団を敷くために、中央にあるローテーブルを少しタンスの方へと移動させる。
 ふとタンスの上を見ると心臓が早鐘を打ち始めた。
 人形がこちらを見ていた。
 そんな、まさか。
 田沼の悪戯だろうか。実は起きている? 規則正しい寝息が、聞こえるからそれはないと思う。トイレに起きて、偶然もどしたか? でもトイレは浴室の隣だから音で気付く。じゃあ何で?
 ベッドで眠る田沼が、寝たフリをしているんじゃないかと覗き込む。小さな声で名前を呼ぶが、反応はない。
 あんまり深く考えない方がいいかもしれない、と布団を敷き、潜り込む。視線を感じる気がして、タンスに背を向けて目を瞑った。
 目を瞑った瞬間、瞼の裏に焼き付いたように目が見える。怖くなって、パッと目を開くと目があった。喉からヒッと音が出る。
 ベッドの下に、誰かいる。真っ暗なはずのそこに、何かいる。カッと見開かれた双眸が、瞬きもせずに俺を見ている。恐怖と緊張で完全に動けなくなった俺は、そいつから目を逸らすこともできない。
 唐突に、軽快な電子音が鳴り、ようやく体が動いた。瞬きをするとベッドの下の何かは居なくなった。
 安堵の息をつきつつ、まだ早鐘を打つ心臓を落ち着かせるようにケータイを開く。さっきの音は、メール音のはずだ。メールの送り主は森だった。こんな早朝からメールが来るのは初めてだ。
 メールを開くと久しぶりに会えないか、という内容だった。今日の昼間なら空いているけど、都合はどうかと返事を返す。ふとまた視線を感じて上を見ると目があった。また、さっきの何かかと身構えたが、田沼だ。
「ビックリした。ごめん、起こしたか?」
 田沼は首を横に振り、俺の手を握ってくる。どうやら寝ぼけているらしい。
「怖い夢、みた」
 言いながら思い出したのか、田沼は怯えたような表情をしている。男同士で手を握っているという寒い状況だが、相手は寝ぼけた男だ。手を握り返してやると安心したのか、また目を瞑った。怯える田沼など初めて見る。なんだか優越感を感じながら俺も目を瞑った。

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