3 新月のため、懐中電灯の明かりだけを頼りに進む。暫く歩いたが、この墓地はこんなに広かっただろうか。外から見たら小さな墓地だった気がする。 「何か、広くないか?」 問いかけ、顔を上げると思わず息が詰まった。田沼がこちらに笑みを向けていた。そこまでは良かった。どうみても首が180度回っている。こちらを体ごと向けているような顔の位置なのに、背中を向けている。 なんだよ、これ。 ひっと喉が絞まり、後退ると田沼は更に笑みを濃くした。 「っ……た、ぬま?」 無理矢理出した声は掠れていた。震える体を叱咤し、何とかその場に立つ。 「ん、何?」 言って体がこちらを向く。顔の向きは戻っていた。一定の距離を保ったままジッと見つめる俺を田沼は怪訝そうに見つめる。 「どうした、顔色悪いよ?」 「さっき、こっち見てた?」 質問に質問で返すと、は? と間抜けな顔をする。 「いや、だからこっち見て笑った?」 「いや。ずっと前見てた」 じゃあ、見間違いか? いや、確かに見た。今でも鮮明に思い出せる。じゃあさっきのは何だ? 考えを巡らせていると田沼が近付いてきた。思わず後退る。田沼は不機嫌そうに顔を顰める。 「何で退るんだよ?」 「いや、つい」 ふうん、と納得がいかないようだが、深くは聞いてこなかった。 「飽きたし帰ろ」 田沼は言い、もと来た道を戻る。もう首は180度回ることはなかった。 [戻る] [しおりを挟む] |