3 田沼の部屋に帰ると、田沼は既に帰っていた。 ただいま、と声を掛けるとスマホに視線を落としていた田沼が顔を上げる。 「おかえり」 スマホをテーブルに置き、笑顔で迎えてくれた田沼の視線が、下の方へと向けられる。その視線を辿れば、俺の手元の人形を見ていた。 「何それ」 田沼の声が、硬くなる。若干顔も引き攣っている。 まぁ、そりゃそうだ。きっと誰だって、男子大学生がフランス人形を持っていたら同じ反応をするだろう。俺だって、田沼がフランス人形持っていたら嫌だ。 「えっと、貰った」 両手で人形を持って、雑に説明する。田沼は俺と人形を交互に目をやり、ニヤリと笑った。 「せっかくだし、飾っとけばいいじゃん」 そう言って、田沼は寝室のタンスの上に人形を置く。一人暮らしの男の部屋にフランス人形という光景は、なんとも言えない気持ちになった。 てか、これは暗い中見たら怖いんじゃないだろうか。夜中トイレに起きた時、これが目に入ったら絶対に怖い。ただ、貰い物を無碍にはできなくて、そのまま飾っておくことにした。 その日から何度か、目に入り一人想像力を膨らませ怖くなったこともあったが、それ以外何かあるわけでもなく。その内、気にならなくなった。 仁美ちゃんからのメールは、フランス人形を忘れた頃に届いた。 『あの人形は元気ですか?』 元気ですか、というのは人形に使うべきではないんじゃないだろうか? なんて思いつつも、飾ってある人形を一瞥して大事にしていると返事を返す。 そういえば忘れていたな、とフランス人形に目をやれば、カタリと音を立てて倒れる。夏だというのに、ゾクリ背中が寒くなった。気のせいだろうと自分を納得させて、人形を立たせる。 自身を落ち着かせるために、息を吐いて時計を確認する。そろそろバイトの時間だ。 [戻る] [しおりを挟む] |