2 合コン当日、待ち合わせ場所に来てみれば妹さんしかいなかった。 3対3で行われると俺は知らされていたが、彼女は合コンなんて知らないと言う。 完全に騙された訳だ。何故こんなまどろっこしいやり方をしたのか、全く検討が付かない。 2人っきりなど、何を話したらいいかわからない。 騙されていたからと言って、このまま帰るわけにもいかない。 とりあえず、近くのカラオケ店に入ることにした。狭い個室で、不自然な程距離を取っている。 いや、今気付いたけど、よく知らない男と2人っきりで密室というのはまずい気がするんだ。いや、だって、俺はその気はないけれど、彼女を不安がらせたら申し訳ないじゃないか。てか、だから俺は誰に言い訳をしているのか。 彼女も緊張しているのか、何も喋らない。そして何も歌わない。 ここは年上である俺が、何とかするべきだろう。 「あの、文化祭の時は、ごめんね」 言ってから気付く、この段階でこの話題は余計に気まずくなるだろう。 案の定、彼女はいえと言ってまた黙ってしまった。 盛り上がらない。完全に詰んだ。 こういう時、いつも田沼はどうしていただろうか。いや、そもそも田沼といるときは、こんなに気まずくなることはない。 田沼のコミュ力に嫉妬しつつ、この場を盛り上げるために話題を考える。 「とりあえず、歌おうか」 そう言ったもののたいして盛り上がることもなく、暗くなる前に帰路に着くことにした。 彼女を家まで送る。 別れ際、呼び止められた。 「あの……上原さんの連絡先、教えてください」 2度目はないものだと思っていたが、これは脈有りだと考えていいんだろうか。 頷いて、赤外線通信をする。 連絡先を交換し、そこで初めて彼女の名前がわかった。新田仁美(にったひとみ)。 そうか。自己紹介しておけばよかったのか! 完全に後の祭りだ。 「そうだ。これ、どうぞ」 内心、頭を抱えていると彼女がスッと何かを差し出してきた。 人形だ。フランス人形だろうか。 本人には言えないが、少し不気味だった。 「ありがとう」 正直嬉しくないが、お礼を言って受け取る。 彼女の表情は、逆光で見えなかった。 [戻る] [しおりを挟む] |