1 蝉が騒がしく、木のどこかで鳴いている。 夏休みだというのに、俺はバイト詰めだ。今もバイト先に向かっている。 田沼は、というと女の子と遊んだりしているらしい。これだからイケメンは! 暑いな、と空を見上げる。山のほうに入道雲が見える。 ポツリ、鼻に何か落ちた。雨だ。 空は晴れているのに、雨が降っている。ザァと音を立て、勢い良く降ってきた。 狐の嫁入り――そう誰かが言ってたのを思い出す。 チリン――……。 鈴の音、だろうか? 背筋を冷たいモノが走る。キーン、と頭痛を伴うような耳鳴りが襲ってきた。 ビリビリと肌を刺すような緊張感は、最近も感じた覚えがある。 キーン、と耳鳴りが一際大きくなった。 頭の中に心臓があるみたいだ。鼓動と共に頭痛が襲う。目の前がチカチカと光った。 立っていられなくて暫く座っていると、徐々に良くなっていく。耳鳴りと頭痛が治まる頃には、雨は止んでいた。 立ち上がり、暫く歩く。さっきの頭痛諸々が嘘のようにいつも通りだ。 何だったのか判らないが、もう体調も大丈夫そうだ。バイトに行っても問題ないだろう。多分。肩も重くないし、多分、大丈夫、だよな?でもなぁ、また怖いめには遭いたくないな。一応森に聞いてみようか、なんて思って止めた。 俺、アイツと喧嘩中だ。夏休み直前で喧嘩っぽい事になって、あれからお互いに連絡を取っていない。あれに関しては、俺が悪いとは思えないので、俺から謝るっていうのもおかしいだろう。 そんな事を考えている間に、バイト先に着いた。 [戻る] [しおりを挟む] |