6 数十分後、警察に無事通報できた俺は、また事情聴取された。 全て終わって、ホッと息をついて警察署から出る。来たときは、薄暗かった外は完全に暗い。 まさか、短期間で2度も事情聴取されるとは思わなかった。 あの臭いと紫色を思い出し、思わず口元を抑える。 ケータイの電源を入れた。田沼からメールが何件か着ている。どれも俺を心配する内容だ。この場合、電話のほうがいいだろうか。考え、メールで返す。寝ていたら起こしたくない。 さて、帰るか。 歩を進めると名前を呼ばれ、そちらに目を向ける。 「お疲れ」 森だ。手を軽く上げ、森が近づいてきた。 「逢沢から聞いた。ごめんねって言ってた」 あの小さなビルで見た、逢沢さんを思い出す。彼女は、ありがとう、と言っていた。 「お前、あれ誰だかわかるか」 森は、俺の目をジッと見て言った。 森があれ、と指すのは、きっとあのビルで見た死体の事だろう。 首を横に振った。 「あれ――逢沢だ」 呟くように、森は言う。 何、言ってるんだ。意味が解らず、森の目を見る。そこからは何も読み取れない。 「何言ってるんだよ。逢沢さんは生きてるだろ。さっきだって、見たし」 悪い夢でも見たんじゃないのか、と笑った。森はそれを笑いもせずに、俺を見る。 いや、だって、そんな。 「お前が出会った時には、すでに逢沢は死んでたんだ」 遠くを見つめ、森は言う。 「上原が普通に話し掛けてきてくれて、嬉しかったって言ってた」 嬉しかったも何も。だって、そんな。 混乱する俺に構わず、森は続ける。 「身体を見付けてくれてありがとう、だってよ」 言って、森は俺の背中を叩く。地味に痛い。 「じゃあ、伝えたし帰る」 言って、森は背を向ける。そして数歩歩いて振り返った。 「この前は悪かった。気を付けろよ」 俺の感情とか、諸々おいてけぼりにして、行ってしまった。何だったんだ。 また意味深に、気を付けろ、だ。だから何にだよ。 頭を掻いて、俺も帰路につく。 [戻る] [しおりを挟む] |