4 その日の夜、夢を見た。 真っ暗な部屋。水の滴る音だけが聞こえる。 腕を動かすとジャラジャラと音がした。 暗闇に慣れてきた目で、腕を見る。手首に鎖の長い手錠が付いていた。足首も同様に、拘束されている。 なんだ、これ。 状況を飲み込めず、頭を触る。 「また逃げようとしてるのか」 暗闇から声が聞こえ、そちらに顔を向ける。人影が、ゆっくり近づいてきた。 見える位置まで来て、俺を見下ろす。知らない男だ、と思う。暗いから確信は出来ない。 「逃げようとしたのか!」 怒声を浴びせられ、頬に平手打ちされる。前髪を掴まれ、無理矢理、顔を上げさせられた。 「逃げるなんて許さないからな!」 今度は殴られ、床に倒れ込んだところを蹴られる。 痛い、ごめんなさい、と叫ぶように行ったが聞き入れては貰えない。許して欲しい、と泣き叫ぶとようやく男は止まった。 「どうした、なんで泣いてるんだ? 誰にやられた? 言ってごらん」 途端、優しい声で問い掛け、抱き締められる。 何を言っているんだ。 抱き締められ、頭を撫でられる。 「大丈夫。大丈夫だ。俺が守るよ」 男は言って、ゆっくりと俺を放す。 「腕を出して」 いつまた豹変するかわからず、腕を出した。袖を捲られ、剥き出しになった肌に、キスをされる。ビクリ、と腕を引きそうになり、耐えた。 「寒い? 鳥肌が立っている」 アンタにキスされて立った、なんて言えるはずもなく。曖昧に頷いた。 男はふふ、と笑い自身のポケットから何かを取り出す。 「愛してるよ」 耳元で囁かれた。 チクリ、と腕に何かが刺さる。腕を見れば、注射器が刺さっていた。何か液体を身体の中に入れられる。 何をしているのか、と男を見た。男は何も言わず、俺の頭を撫でる。 「大丈夫。よぐに良くなる」 また抱き締められる。 「……先生」 無意識に、男をそう呼んだ。 ああ、そうだ。この人は知らない人じゃない。自分の病気の主治医だ。 意識が朦朧とする中、思い出す。 ホッとして先生に凭れ掛かった。一気に意識が遠退く。 「愛してるよ」 目が覚めると最近見慣れてきた天井があった。 なんだったんだ、あの夢。妙にリアルだった。 俺は病気なんてしていないし、あの男だって知らない。 腕捲りをして見る。注射の痕はない。ホッと息を吐き、まぁいいか、とまた目を瞑った。 [戻る] [しおりを挟む] |