3 久しぶりに会ったあの日から、逢沢さんに会っていない。 もともとこのマンモス校で、頻繁にあっていたというのも変な話かもしれないけれど。 こんな風に会わなくなってから気付いた。俺は彼女のケータイ番号もアドレスも知らないのだ。 毎日、食堂の片隅を見るが、そこに逢沢さんはいない。 「そんなとこに突っ立てたら邪魔だぞ」 後ろから話し掛けられ、振り返ると森が立っていた。 「あ、ちょうどいいところに。お前、逢沢さん知らない?」 俺アドレス知らないんだよね、なんて笑って話す。 俺の言葉に、森は眉間に皺を寄せた。 なんだよ。 「お前さぁ――いや、あっちで話そう」 呆れたように溜め息を吐き、何かを言い掛けて止める。 いつも通り食堂の片隅に陣取り、向かい合って座る。 何だか、この感じ久し振りだ。いや、逢沢さんが居ないのは初めてだから、向かい合って座るのは初めてか。 「前にも言ったけど、ちゃんと周りを見ろよ」 怒ったような口調に、俺は思わず頷く。 つか、何で俺怒られてんの? 「お前、本当に目付いてるのか?」 「付いてるだろ! お前こそ付いてんのか」 なんなんだ。喧嘩売ってんのか、こいつは。しっかり2つ付いてるだろうが。 「目から得る情報は8割って言うけど、お前は8割も使ってなさそうだな」 鼻で笑うように、言われる。 いや、ホント今日なんなの。こいつ、何でこんなに突っ掛かってくるの。腹立つ。 「お前、機嫌でも悪いの?」 睨み付け、聞く。 機嫌悪いのを俺に当たるなよ。 「別に。本当に気付いてないみたいだから言うけど、あいつ――」 「何なに? お2人さん喧嘩?」 ピリピリした空気の中に、不釣り合いなチャラい声が聞こえる。田沼だ。 田沼の声に話を遮られた森が、舌打ちをする。いや、マジで今日はどうした。 「逢沢の件、俺は知らない」 それだけ言うと森は食堂を後にした。 [戻る] [しおりを挟む] |