1 四畳一間のボロアパート。壁が薄すぎて、生活音が丸聞こえだ。だが文句は言っていられない。貧乏学生である俺――上原良太(うえはらりょうた)は、家賃の安さに飛び付いたのだ。それに今は隣の住人はいない。 ただ、彼女は呼べない。まぁ、そんなものは生まれてこのかた出来たことなんてないけれど。 今だって、隣でテレビを見てゲラゲラ笑っている田沼渉(たぬまわたる)は、ただの友人だ。 「ちょっ上原! 今の見た?」 「田沼。ちょっと声抑えろって」 注意するが、田沼は聞く耳なんて持たない。ゲラゲラ大爆笑。わかってたけどね。コイツはこういうヤツだ。 高校の頃からそうだった。俺は高校から、私立の幼・中・高・大一貫のマンモス校に入学した。そのせいか、なかなか友達なんてものは出来なかった。大袈裟に言ってしまうと、幼稚舎から通っている奴らは皆幼馴染みなのに対し、俺のように途中から入学してくるヤツはよそ者みたいなもんだ。ある程度コミュニティが出来ている中、社交性の無いヤツは友達なんてものを作ることが出来ない。まさに俺のことだ。そんな中、お前友達いないだろ? なんて話しかけて来たのが田沼だった。 今だって流行りのアイドルが、お化け屋敷に入って泣き喚いているのをゲラゲラと笑っている。まあ、こんなヤツだから、友達になれたのだけど。 ぼーっとテレビを眺めていると、アイドルが何も悪いことをしていないのに、ごめんなさいと繰り返しだした。 「何で恐怖を感じると謝るんだろうな?」 ふとした疑問が口に出た。ゲラゲラと笑っていた田沼がこちらに顔を向ける。もう笑ってはいない。 「さあ。でもさ、自分で体験したらわかるんじゃね?」 言った後、ニヤリと口角を上げた。 嫌な予感しかしない。 こっちみんな。ニヤニヤすんな。 「肝試し行こうか」 散歩でも行くか、とでも言うかのように軽いノリで田沼は言った。嫌に決まってんだろ。 [戻る] [しおりを挟む] |