5 柏木の家に一旦戻り、必要な荷物を取ってくることになった。一人じゃ危ないだろうってことで、俺もついてくことにした。 こんなに柏木と二人きりで一緒にいるのは、初めてかもしれない。いつも田沼と一緒だったから、不思議な感じがする。 柏木は小さいながらも小綺麗なアパートに、一人暮らししていた。 郵便受を開け、柏木が溜め息を吐く。郵便受からパラパラと手紙が落ちる。 ぞわり、と鳥肌が立った。 可愛らしいフォントで"柏木悠太様"と書かれている手紙が大量に落ちている。郵便受の中にも、それがあった。気色悪い。怖すぎる。 とにかくそれを俺が全部拾った。 部屋に入ると同時にケータイが震える音がする。二人で小さな悲鳴を上げた。怖すぎて笑えない。 柏木とケータイの液晶画面を覗く。 非通知だ。 長く震えて、切れて、また震えて、切れる。それを何度も繰り返しているとドンッと玄関の扉が叩かれた。 ビクッとお互い抱き合う。もう情けないとか考えられなかった。心臓が頭の中にあるかと思うくらい、鼓動が耳元で聞こえる。 ドンッドンッと数度叩かれる。 「ゆうくぅん。どうして電話に出てくれないのぉ?」 甘ったるいねっとりとした女性の声が、扉越しに聞こえる。 帰れ帰れ帰れ帰れよ。 しばらくして音が止んだ。もう、大丈夫だろうか。 涙目になりながら、覗き窓を見ると女と目が合った。 いや、多分合った訳じゃない。向こうからは多分、みれないだろうし。 にっこりと笑みを浮かべ、女は去っていった。 完全に腰が抜けた。怖い。何なんだよあれ。 しばらく2人で座り込んだまま動けなかった。 ようやく動けるようになった時には、どっと疲れていた。 [戻る] [しおりを挟む] |