3 トイレに入っていく柏木が見えて、俺は後に続いた。 個室の扉が閉まっている。その中から苦しそうな声と咳が聞こえている。吐いてるみたいだ。 「柏木、大丈夫か?」 思わず、聞いていた。いや、大丈夫じゃないんだろうけど。 返事は返ってこない。 ひとしきり吐いたのか、今度は泣き声が聞こえてきた。息を詰めているような音も聞こえる。 こんな時、どうしたらいいのかわからない。俺はただ、個室の前で立っているしか出来なかった。 しばらくして、ようやく柏木が出てきた。目が泣いたからか、赤く腫れて、声が少し鼻声だ。 俺を見て、驚いたように一瞬目を見開く。 「かっこ悪いよな、おれ」 すぐに苦笑して、柏木は言った。 「いや、そんなこと……。あのさ、あの、俺でよかったら話し聞くよ? いや、話したくないなら無理にとは言わないけど、その……」 「……ありがと、上原」 ボソボソと言った俺の言葉に、柏木は微笑を浮かべて言う。 お礼を言われるほどの事は、出来ていない。 「長いし、あまり楽しい話しじゃないけど、聞いてくれないか?」 柏木の言葉に頷く。 「俺の部屋、おいでよ。狭いけど」 部屋に誘うと、柏木はまた、ありがとう、と言って頷いた。 [戻る] [しおりを挟む] |