2 「そんなことより、田沼と喧嘩でもしたの?」 誤魔化すように話題を変えられた。これは、あんまり触れてはいけなかったのかもしれない。 「喧嘩つーか、俺が悪いつーか……田沼怒らしちゃって、電話もメールも無視されてる」 思わず溜め息を吐くと柏木は困ったように笑った。 「あいつ、子供っぽいもんなぁ。それにしても珍しいよな。いつもは田沼が上原怒らしてんのに」 思い出しているのか、目を細めて柏木は言った。 確かに、柏木の言う通りだ。いつもは、田沼が原因だったりするから俺が怒ってる。例えば、酔って部屋のもの壊したり、好き嫌いしたり……。 「まあ、そのうち許してくれると思うよ。田沼は上原の事好きだし」 そうだといいけどなぁ。 丁度柏木と俺の間に沈黙が流れた時、見計らったようにくぐもった音がなる。 それは柏木のスマフォのバイブレーションだったらしく、柏木はスマフォを取り出し画面をタッチしている。どうやらメールみたいだ。 ただ、なんだか手が若干震えている。顔色も悪い。 メールを確認した柏木は顔を顰め、口元を抑えた。 みるみる血の気が引いていく柏木に、思わず話し掛ける。 「どうした、大丈夫か?」 異変に気付いたのか、森も顔をあげる。 急に立ち上がり、口元を抑えたまま柏木は早足で食堂から出ていった。俺はそれを慌てて追う。 「かわいそうに」 食堂から出るとき、逢沢さんの呟く声だけがよく聞こえた。 [戻る] [しおりを挟む] |