愛染 | ナノ




 目が覚めると木の葉が風で揺れていた。その隙間からチラチラと青い空が見える。
 どうやらベンチで寝ていたらしい。
「起きたか」
 森の声が頭の方から聞こえ、顔を上に向けると文庫本を持った森と目があった。
「演奏中に寝たかと思ったら、魘されてるから流石に出てきた」
 起こしても起きなかったからな、と苦笑混じりに言う。
 ハッとして起き上がる。周りを見回すが、田沼はいない。
 これが夢なのか現実なのかわからない。
「まだ寝惚けてるのか」
 周りをキョロキョロとする俺に、森は俺の頬をつねって言う。
 痛い。
 抵抗すると森は頬から手を話し、俺の頭を撫でる。
「おい、何すんだよ」
 大の男が同じ男に頭を撫でられるなんて耐えられない。絵的にも勘弁してほしい。
「もう少し周りに気を付けろ。言っただろ、気を付けろって」
 頭を撫でていた手が、乱暴になった。朝セットした髪型が崩れる。
「だから何にだよ」
 手ぐしで髪を直し、森を見た。
「周りだよ。要するに全部」
 範囲広すぎだろ。
「もうちょいヒント」
「クイズじゃねぇよ」
 額にデコピンされ、地味に痛い。つか、骨痛いマジで。
 痛みをまぎらわすために額を擦る。
 ふと手首に人に掴まれたような痣があることに気付いた。この左手首は田沼に掴まれた方だ。
 ゾワゾワと背中が寒くなった。

 まだ、梅雨は明けないらしい。

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