愛染 | ナノ




 待ち合わせ場所に行くと既に森が来ていた。
 俺と田沼を確認すると手を軽く上げた。俺も同じように上げると走って側による。
「待たせた?」
「いや、今来たとこ」
「恋人かよ」
 森との会話をからかうように、田沼は言った。
 気色悪いこと言うな、馬鹿野郎!
「森、可愛い女の子いる?」
 森の肩に腕を回し、田沼が聞く。馴れ馴れしい奴だ。
「知らん」
 森の腕を振り払いながら言う。
 田沼はそれを気にすることもなく、先を歩き始めた。
 碧木学園に着くと思わず笑ってしまった。
 そりゃあもう大きかった。俺も高校時代はマンモス校通ってたが、比じゃない。いや、校舎の大きさは変わらない。ただ、庭園はなかった。なんだこれは、外国か。いや、漫画の中かと……。薔薇園があったり、でっかい噴水がある。
「上原何笑ってんの。気持ち悪い」
 前を歩いていた田沼が振り返るなり、言った。
 気持ち悪いってなんだ、失礼な。
「気持ち悪い」
 ボソリと隣の森からも聞こえた。
 若干笑い堪えてんのが腹立つ。笑うなら笑え。
「秋一兄さん」
 森を呼ぶ声が聞こえて、そちらを見ると美少女がこちらに向かって歩いて来た。
 彼女が森の従兄妹なんだろう。
「来てくれてありがとう」
 俺と田沼を見ると微笑を浮かべ、目礼した。
「森優深(もりうみ)です。秋一兄さんのお友達ですか?」
「これが上原で、こっちが田沼」
 優深ちゃんの問いに、森が答える。
 なんだ、これって。俺の扱いはこれなのか。
 それにしても、今日の田沼は変だ。いつもならここで女の子の肩抱いたりしながら、よろしくー、なんて言うはずなのに。森に気を遣ってるんだろうか?
 そこまで考えて止めた。田沼はそんな奴じゃない。
「じゃあ、オレ、柏木たちも来てるらしいからそっち行くわ」
 片手を挙げ、田沼は軽い調子で言った。
 ちょっと待て、オレも行く! なんて俺に言っといて、勝手すぎるだろ。
 呆れる俺を気にすることもなく、田沼は背を向けた。
「ごめんな、森」
 森に申し訳ない。
 誘ってくれたのは俺だけなのに、当日になって田沼も一緒に行く、なんて言っておきながらこれだ。
「いや。多分こうなるとは思っていたから気にするな」
「え?」
 森は、田沼と知り合いなのだろうか。それとも田沼が勝手だ、ってことを噂か何かで聞いたんだろうか。
「まぁ、お前が気にするな。行くぞ」
 俺の思考を読んだように森は言い、俺の背中を叩いた。
 地味に痛い。

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