愛染 | ナノ




 雨が降っている。ジメジメとした空気が肌にまとわりつく。先日この地方も梅雨を迎えた。
 食堂の窓から雨が降っているのが確認できる。非常に憂鬱だ。
「上原くん、眉間」
 逢沢さんが苦笑しながら俺の眉間を指差す。
 無意識に皺が寄っていたらしい。
「上原くんも雨、嫌いなの?」
「あんまり好きじゃないかなぁ」
 答えながら窓の外をチラリと見た。まだまだ止む気配はないみたいだ。
「森くんも嫌いなんだって。私は、外に出なきゃ好きなんだけどね。雨の音が好きなの」
 逢沢さんは俺の隣で、机に突っ伏して寝ている森を見て言った。
 雨の音、か。耳をすますが、俺にはその良さが解らなさそうだ。
「あ」
 急に声を上げて、寝ていた森が上半身を起こす。
「上原、明日暇か?」
 いきなりなんだ。
「暇だよな。明日、文化祭ついてこいよ」
 唐突な質問に答えられずにいると、確信したように言う。そして、文化祭のチケットを押し付けてきた。
 なに、イケメンって皆こう、失礼なの? 何で暇って確信して、唐突に予定捩じ込んでくんの?
 まぁ、暇なんですけどね。
 内心ため息を吐きながらチケットを見る。そこには、金持ち校の名前があった。有名なお嬢様高校だ。いや、正確には、元か。最近共学になったらしいが、近所に同じ規模の男子校があるから男子が少ないらしい。
「何でお前が、碧木学園高等部の文化祭チケット持ってんだよ」
 確かこいつ妹とか居なかったよな。
「従兄弟が通ってるんだ。是非見に来いって言われて押し付けられた」
 面倒そうに頬杖を付いて言うが、口許には微笑が浮かんでいる。あまり笑わない森が、だ。なんだかんだ言って嬉しいらしい。
 森はそれだけ言うとまた机に突っ伏す。
 俺はチケットを無くさないように財布の中に入れた。

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