1 雨が降っている。ジメジメとした空気が肌にまとわりつく。先日この地方も梅雨を迎えた。 食堂の窓から雨が降っているのが確認できる。非常に憂鬱だ。 「上原くん、眉間」 逢沢さんが苦笑しながら俺の眉間を指差す。 無意識に皺が寄っていたらしい。 「上原くんも雨、嫌いなの?」 「あんまり好きじゃないかなぁ」 答えながら窓の外をチラリと見た。まだまだ止む気配はないみたいだ。 「森くんも嫌いなんだって。私は、外に出なきゃ好きなんだけどね。雨の音が好きなの」 逢沢さんは俺の隣で、机に突っ伏して寝ている森を見て言った。 雨の音、か。耳をすますが、俺にはその良さが解らなさそうだ。 「あ」 急に声を上げて、寝ていた森が上半身を起こす。 「上原、明日暇か?」 いきなりなんだ。 「暇だよな。明日、文化祭ついてこいよ」 唐突な質問に答えられずにいると、確信したように言う。そして、文化祭のチケットを押し付けてきた。 なに、イケメンって皆こう、失礼なの? 何で暇って確信して、唐突に予定捩じ込んでくんの? まぁ、暇なんですけどね。 内心ため息を吐きながらチケットを見る。そこには、金持ち校の名前があった。有名なお嬢様高校だ。いや、正確には、元か。最近共学になったらしいが、近所に同じ規模の男子校があるから男子が少ないらしい。 「何でお前が、碧木学園高等部の文化祭チケット持ってんだよ」 確かこいつ妹とか居なかったよな。 「従兄弟が通ってるんだ。是非見に来いって言われて押し付けられた」 面倒そうに頬杖を付いて言うが、口許には微笑が浮かんでいる。あまり笑わない森が、だ。なんだかんだ言って嬉しいらしい。 森はそれだけ言うとまた机に突っ伏す。 俺はチケットを無くさないように財布の中に入れた。 [戻る] [しおりを挟む] |