7 無駄話をしているとポツリ、と頬に冷たい液体が落ちた。雨だ。 空を見上げると低い位置で曇っている。 「うわ、降ってきた。そういえば、明日から梅雨入りだってさ」 田沼が少し歩調を早めながら言った。梅雨か。あまり好きじゃない。いやだな。 空から視線を戻す。 前の方からレインコートを着た女性が歩いてきた。思わず身構える。女性は俯いていて顔が解らない。 まさか、違うだろ。そんなホラー映画じゃないんだから、と自分に言い聞かせる。 どんどん近づいてくる。ドクンドクンと脈打つ。頭の中に心臓がある気分だ。 レインコートの女性から目が離せない。 通り過ぎる瞬間―― 「死んだら楽だったのにね」 そう呟いて行った。 ドクンドクンと未だに心臓がうるさい。 「今の赤い傘の人、綺麗だったね」 田沼が楽しそうに言う。 え? 赤い傘? 振り返ると確かに、赤い傘の女性が背を向けて歩いていた。 レインコートの女はいない。 [戻る] [しおりを挟む] |