6 心地のよい揺れと、温度がお腹を暖める。すごく気持ちがいい。 顔の辺りに心地のいいくすぐったさがある。いい匂いもして、額を押し付けるようにぐりぐりと首を振る。 心地のよい温度を引き寄せるように、腕に力を入れる。丁度細くて抱き締めやすかった所に腕をやり、ぎゅっと身体を寄せつつ引き寄せた。 「ちょ……上原、苦しい」 聞き覚えのある声が聴こえて、重い瞼をゆっくりと開ける。 目の前には茶髪。声にならない悲鳴を上げ、離れようと暴れる。 「さっきからなんなの上原。大人しくしなよ」 聞き覚え、どころかほぼ毎日聞いている声が聴こえた――田沼だ。 何で田沼? あれ、レインコートの女は? バイトは? 混乱している俺は落ち着くように自分に言い聞かせ、状況を把握しようと周りを見る。 外のようだ。そして、信じがたいことに俺は田沼におんぶしてもらっている。 「降りる。自分で歩く」 恥ずかしいったらない。大の男が同じ男に背負われてるなんて、恥ずかしい。 「だぁめ。上原さ、コンビニの外で倒れてたんだよ。たまたま俺が通り掛かったからよかったけど。最近、疲れてるんじゃないの?」 この前も倒れたよねぇ、なんて言葉は心配しているようだが、口調は軽い。全然心配しているように聞こえない。 でも、女好きのチャラいコイツが、野郎をおんぶなんて、恥ずかしいことをしているのに降ろさないって事は、それなりに心配してくれているのかもしれない。 「ありがと」 俺だって好きで倒れているわけじゃないが、起こった事を言ったて信じてはもらえないだろうし。てか、夢の可能性のが高いから本当に疲れてて、いきなり寝てるのかもしれない。 睡眠障害的な? 一度病院に行った方がいいのかもな。 「そういえば、バイトは?」 「ああ。店長さんに上原が倒れたこと伝えたら、今日は帰っていいってさ。しばらく休みでもいいからって言ってたよ」 マジか。良かったような悪かったような。店長一人で大丈夫かな。 「てかさ、タクシー使えばよかったじゃん」 わざわざ背負って歩く事ないだろうに。 「あーうん。今持ち合わせなくってさ。合コンで金使っちゃって」 またか。思わずため息が出た。 「お前、本当金にだらしねぇな」 こんなことが度々ある。終電に間に合わなかった時は俺のバイト先に、泊めて、なんて現れる。多分、今日もそうなんだろう。 「朝飯作れよ」 「上原優しーもうホント愛してる」 キショイ。鳥肌立った。 [戻る] [しおりを挟む] |