5 気を付けろ、と言われたものの結局逢沢さんも森も、何に気を付ければいいのかは教えてくれなかった。 バイト中である今も気になって仕方がない。カウンターフードの期限を見つつ、ため息を吐く。 もしかして、あのレインコートの女がまた来るってことなんだろうか。嫌だなぁ。今度こそ殺されるかもしれない。かっちゃんも死相が出てるって言ってたからなぁ。 またため息が出る。 「ごめんね、上原くん」 後ろから急に声を掛けられて、ビクリと大袈裟な程肩を揺らしてしまった。振り返ると店長がいた。ため息を聞かれていたのか、とても申し訳なさそうだ。 いえ、と言って首を横に振る。 「ゴミ袋換えてきます」 一言断って、外に出た。 最近寒くなったな、なんて考えつつゴミ箱に近付く。ゴミ箱の蓋に手を掛けた瞬間、強い力で腕を引かれた。 ――えっ 濡れていて、冷たい手が俺の腕を掴んでいた。その手はゴミ箱の中から伸びている。 中に、何かいる…… 必死で抗おうとするが、ビクともしない。むしろどんどん腕がゴミ箱に吸い込まれていく。更に強い力で引かれ、ゴンッと音を立ててゴミ箱に胸部を打ち付けて一瞬息が出来なかった。 息が出来るようになった瞬間に、噎せかえるような悪臭が鼻をつく。 パニックになった俺は暴れるが、まだ腕を引かれる。ぞわぞわと腕から何かが上ってきた。濡れた気持ち悪い感触が首まで上り、首に巻き付く。 中の何かは、きっとレインコートの女だ。 首に巻き付いた何かが一気に絞まる。苦しくて必死に、あいている手でもがくが、全く外れない。誰か助けて。 「死ね」 ゴミ箱の中からあのレインコートの女の声がする。 意識が薄れていく。死にたくない。必死にもがく。それが鬱陶しかったのか、一際強く絞められた。 [戻る] [しおりを挟む] |