愛染 | ナノ




「田沼くんじゃないのね」
 くすりと笑い、からかうように逢沢さんは言う。
「そんな頻繁に会ったりしないよ」
 思わずムッとして応えるとくすくすと笑われる。
「あら、そう?」
 逢沢さんは、意地の悪い笑みを浮かべている。
 確かに、確かに不本意ながら、田沼と一緒にいることは多い。でも、逢沢さんとこういう風に喋ったりするし、最近では柏木ともたまに遊んだりする――田沼も一緒だけど。
 別に田沼だけじゃないし。
「逢沢」
 ふいに後ろのから聞いたことのある声が聞こえ、振り返る。逢沢さんを呼んだ相手を見て、あっとお互いに声を上げた。
 デジャブだ。
「あら、森くん……知り合い?」
 また出会った男を見て、逢沢さんは笑顔で手を挙げる。でもすぐに俺たちを交互に見て、言った。
「顔知ってる程度だよ」
 俺がそれに応える。
「へぇ、そうなの? ……あっ彼、森秋一(もりしゅういち)くん。ほら、政治家の森昭三さんいるじゃない? あの人の甥っ子」
 逢沢さんに紹介され、男改め森はどうもと目礼した。
 どこかで見たことあると思ったら、同じ大学だったからか。それにテレビでたまにインタビューを受けている政治家に、叔父と甥とはいえ、確かに似ている。
 モヤモヤとしていた気持ちが漸く晴れた。
「彼は上原良太くん。よく私の話し相手になってくれるの」
 森くんと一緒ね、なんて嬉しそうに笑う。笑顔がすごく可愛い。思わず見惚れてしまった。
「あっもしかして、気を付けろって森くんに言われたんじゃない?」
 パンッと手を叩き、また俺たちを交互に見る。
 俺が頷くとやっぱり、と呟き身を乗り出して来た。
「気を付けてね」
 真顔で言われ、俺は頷くことしか出来なかった。

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