4 「田沼くんじゃないのね」 くすりと笑い、からかうように逢沢さんは言う。 「そんな頻繁に会ったりしないよ」 思わずムッとして応えるとくすくすと笑われる。 「あら、そう?」 逢沢さんは、意地の悪い笑みを浮かべている。 確かに、確かに不本意ながら、田沼と一緒にいることは多い。でも、逢沢さんとこういう風に喋ったりするし、最近では柏木ともたまに遊んだりする――田沼も一緒だけど。 別に田沼だけじゃないし。 「逢沢」 ふいに後ろのから聞いたことのある声が聞こえ、振り返る。逢沢さんを呼んだ相手を見て、あっとお互いに声を上げた。 デジャブだ。 「あら、森くん……知り合い?」 また出会った男を見て、逢沢さんは笑顔で手を挙げる。でもすぐに俺たちを交互に見て、言った。 「顔知ってる程度だよ」 俺がそれに応える。 「へぇ、そうなの? ……あっ彼、森秋一(もりしゅういち)くん。ほら、政治家の森昭三さんいるじゃない? あの人の甥っ子」 逢沢さんに紹介され、男改め森はどうもと目礼した。 どこかで見たことあると思ったら、同じ大学だったからか。それにテレビでたまにインタビューを受けている政治家に、叔父と甥とはいえ、確かに似ている。 モヤモヤとしていた気持ちが漸く晴れた。 「彼は上原良太くん。よく私の話し相手になってくれるの」 森くんと一緒ね、なんて嬉しそうに笑う。笑顔がすごく可愛い。思わず見惚れてしまった。 「あっもしかして、気を付けろって森くんに言われたんじゃない?」 パンッと手を叩き、また俺たちを交互に見る。 俺が頷くとやっぱり、と呟き身を乗り出して来た。 「気を付けてね」 真顔で言われ、俺は頷くことしか出来なかった。 [戻る] [しおりを挟む] |