3 気を付けろ、と言われたあの日から一週間。俺は何事もなく過ごしている。確かに変なものは見るが、見るだけであの時のように、身の危険は感じてはいない。 「気を付けろ、ねぇ」 口に出したところで、解るわけがなかった。 「どうしたの? 最近考え事ばっかりしてる」 向かいにいる逢沢さんが、顔を覗き込んできた。 食堂の片隅の四人掛けのテーブルで向かい合って、俺と逢沢さんは座っている。 「いや……えっと、一週間前にさ、顔を知ってる程度の奴に、気を付けろって言われたから気になって」 簡潔に話しすぎて、俺が細かい事気にする小さい男って感じがする。実際そうなんだけど。 逢沢さんは、うーんと唸り、俺を見つめる。 「確かに。気を付けた方がいいかもしれないわ」 俺を見つめたまま、逢沢さんは眉尻を下げて言う。 「気を付けるって、何に?」 不安になって少し身を乗り出すと電話が鳴った。逢沢さんに一言断り、多分田沼だろうと名前を確認せずに出る。 「もしもし上原くん?」 田沼じゃなかった事に驚いて、直ぐに反応出来なかった。相手にもう一度、もしもし? と怪訝そうに声を掛けられ、漸く反応する。この声はバイト先の店長だ。 「実は今日さ、上原くんと入れ違いに入ってる子が来れなくなっちゃったんだけど、延長できる?」 申し訳なさそうな、弱々しい口調で聞かれ、電話口で頭をペコペコと下げているのが容易に想像出来た。 「はい、いいですよ」 二つ返事で頷くと店長は嬉しそうに、ありがとうを何度も言ってから切った。 もう少し堂々としたらいいのに、と思うと思わず苦笑いが出た。 [戻る] [しおりを挟む] |