愛染 | ナノ




 蝉が大合唱する中、俺は鳥居の行列を走って越していく。鳥居を抜けると神社が見えた。その裏まで走ると、そこには20歳くらいの青年がしゃがんでいた。
「かっちゃん、あそぼ!」
 手を差し出すとかっちゃんはその手を掴み、うん! と頷く。
「今日もお父さんとお母さんはお仕事?」
 手を繋いだまま歩く。今日は何をしよう。かっちゃんが、俺の顔を覗き込み言った。俺は頷く。
「寂しいね」
「寂しくないよ。かっちゃんがいる」
 俺の言葉にかっちゃんは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「私もね。良太がいるから寂しくないよ」
 こうして遊んでくれるしね。
 言って俺の頭を撫でる。
「じゃあ、毎日遊ぼう!」
 俺はかっちゃんに頭を撫でられるのが大好きで、そう言った。
「うん、そうだね。約束だよ?」
 うん! と頷くとまた頭を撫でてくれた。
 それから一ヵ月後、父の仕事の都合でこの町を離れた。かっちゃんには、そのことを最後まで言えなかったんだ。

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