愛染 | ナノ




 隣に立っていた大きな笠を被った何かが、跪く。
「ありがとう。さがっていいよ」
 隣で跪いていたはずのそれが、すうっと消えた。
「良太、立てるかい?」
 すっと目の前に透き通るような白い手が差し出される。ゆっくりと顔を上げると、やっぱり人間ではなかった。人の形をしてはいるが、人間ではない。
 今まで見てきた中で一番美しい人だった。
「大きくなったね」
 なかなか手をとらない俺に痺れを切らしたのか。肩を支えられ、立ち上がらされた。
 俺は、この方を知らない。だが、この方は俺を知っているようだ。
「13年も経つんだ、当たり前か」
 ふふっと懐かしそうに笑う。
 13年前? 7歳の頃だ。
 記憶を探るが、思い出せない。
「忘れたかい?」
 笑顔を浮かべた顔が無表情になった。
「ごめんなさい」
 思わず謝るが、無表情のまま俺を見る。
 額に手を当てられ、掴まれた。頭を握りつぶされるように力を入れられ、俺は思わず手を握った。酷く冷たい腕だ。更に力を入れられ、悲鳴を上げるがそれが緩められるころはない。目の前がチカチカする。
「思い出しなさい」
 耳元で囁かれ、目の前が真っ暗になった。

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