5 鳥居を越した瞬間、しゃんと鈴の音が聞こえた。ビリビリした空気が伝わり、息がしにくい。怖い――いや、これはきっと畏怖だ。 周りを見回すと自分独りだけだった。 皆は? 探すが、誰もいない。 ふと声が聞こえ、耳を澄ますだんだんはっきりと聞こえてきた。童謡の『とおりゃんせ』だ。 男か女か子供なのか大人なのか――老若男女すらわからない歌声でそれは歌われている。子供の笑い声も聞えてきた。 なんだ、これ。気味が悪い。 引き返そうと後退るとどんと背中に何かぶつかった。情けないことにヒッと喉がなる。ゆっくりと振り返ると大きな何かがいた。 人の形をしているが、たぶんこれは人間じゃない。大きな笠を被ったそれは俺の手をそれの掌に乗せ た。 「あなたをお待ちしておりました」 声帯も空気も揺れずに耳に――正確には頭に低い音が伝わった。 人違いだ、と言いたいのに声が出ない。 かつて無いほど、俺は恐怖を感じている。こわい。 手を引かれ、俺はそれについて行く。 手を握られているわけではないから、いつでも逃げられるはずなのに、出来ない。 奥へ奥へと進むにつれて、息苦しくなる。 俺のような――いや、人間が入ってはいけない領域なのだろう。きっと神域というやつだ。 最後の鳥居を越えたとたん、立っていられなくて足が崩れた。 こわい。こわい。 思わず鳥肌が立ち、涙が出る。 「よくきたね」 男か女なのか判らない中世的な澄んだ声が聞こえた。 息が詰まる。こわい。 吐き気がして口許 を押さえる。 「おや、ずいぶん苦しそうだね。大丈夫かい、上原良太?」 名前を呼ばれ、ビクリと体は震えた。中世的な澄んだ声が近づいてくる。 [戻る] [しおりを挟む] |