2 ボロアパートに着くと、田沼が部屋の扉に凭れ掛かってしゃがみ込んでいた。 俺が声を掛けると立ち上がり、遅いなどと文句を言う。今日来るって言ってなかったじゃないか。 早く鍵を開けろ、と催促されつつ鍵を開けると、俺よりも先に部屋に入る。コイツには遠慮ってものがないらしい。 「ゴールデンウィーク暇だろ。旅行いこう、旅行!」 問いかけではなく確信をもって、田沼は言った。失礼なやつだ。予定ならある。バイトだけれど。 「バイトがあるから無理」 即却下してやると、田沼は唇を尖らせる。 野郎がやっても腹立つだけなのだが、美形のコイツがやると様になるのは何故だろう。俺が女の子だったら、母性本能とやらが刺激されるんだろうな。死ねばいいのに。 「女の子来るのになあ。上原のために、詩織(しおり)ちゃん誘ったんだけど」 思わず田沼を見る。なんで知ってるんだ。 詩織ちゃん――香山(かやま)さんは、俺が高校の時から気になっている女の子だ。今までで2、3回しか話した事がないけど、可愛らしい女の子だ。今時珍しい、大和撫子のような子だ。 「詩織ちゃんの事、好きなんだろ」 行くだろ? なんて言われたら、何とかして行くしかないじゃないか。 幸い、今までバイトを休むなんてことを言ったことないから、きっと何とかなるはずだ。 [戻る] [しおりを挟む] |