好奇心は猫をも殺す 1 子供の頃、お化け屋敷だと呼ばれていた屋敷があった。度胸試しと称して竹藪の奥にあるそこへと行って、帰ってくるというのが子供の頃に流行っていた。 その頃は、この屋敷に入るなんてしなかったけれど、夏休みを利用して心霊スポット巡りにハマッていた俺たちは、今になって屋敷の中に入ってみようとなったのだ。 ただ、竹藪の奥に存在するそこへ夜に来たらきっと迷うだろう。なんて思って、俺は目印になるように、竹に赤いリボンを付けながら下見に来ていた。 昼間でも高く伸びた竹のせいか暗い。どこか薄気味悪いそこに、恐怖と好奇心が混ざり合ったように胸が高鳴る。 それを打ち消すかのように、耳元で独特な高い音が鳴る。蚊だ。鬱陶しいと手で払うが、しつこく何度も耳元を通る。レモン汁を塗った手足は無事だが、塗らなかった顔の周りをプンプンと飛び回る。夜は、顔にも塗って、携帯蚊取り線香を持ってきた方がいいかもしれない。 竹藪の奥の丘を上ると、少し開けた場所に、屋敷が見える。あの頃より、随分ボロくなっているが、立派な建物だ。 リボンを付けながら近づいていくと、ガラガラと音を立てて、玄関の引き戸が開いた。中からガタイのいい、背の高い男が出て来た。 え……? 誰もいないと思っていた屋敷から人が出てくるとは思わなくて、俺はその場で立ち止る。 どういうことだ。幽霊、なわけないよな。だって、こんなにはっきりと見える。黒のタンクトップに、ジャージという姿で、露出している肌は白いが病的な程ではない。筋肉の付いた太い首に痣のようなものが見えるのが、ちょっと怖いがこれも首を吊ったにしては位置が低すぎる。生きた人間ということでいいのだろうか。まさかとは思うが、この屋敷に住んでいるのだろうか。 ふと男と目が合った。男は俺を見るなり、顔を顰め屋敷の中へと戻っていく。なんだ? とその場で動けなくなっていると、男が戻ってきた。手には、何か握られている。升だろうか。その升の中には、白い粉のような物が入っている。そのまま俺の方へと向かってくる男に、俺は後退る。 升の中の白い粉を俺に向かって投げてきた。腕で顔を庇うが、何度も投げられる。細かい砂のような物が、降ってくる。 塩か、これ! 細かいそれが、地味に痛い。 「てっちゃん、止めなさい。その子、屋敷にあげていいよ」 そんな制止の声が聴こえ、男は手を止める。 「おいで」 屋敷の方から、その声は聞こえてくる。開かれた玄関の奥に、その声の主がいるらしい。 男が先に歩き出したが、動かない俺を振り返る。何も言わないが、ついて来いということだろう。俺は恐る恐る一歩を踏み出した。 [戻る] [しおりを挟む] |