御手紙 父が、死んだ。まだ若かったのに、逝ってしまった。 華族の家で育った彼は、父親の部屋の整理をしていた。 物がごった返しているその部屋の角に、そっと置かれている姿見。彼は何故かそれに惹かれた。 そっと、被せられていた布を取る。 当たり前だが、自分の姿が映った。彼はじっとそれを見つめる。 吸い寄せられるように、自分の顔と鏡の中の顔を近づける。拳一個分程まで近づけた。 すると、後ろから何かが落ちる音がした。 彼はハッと我に返り、姿見から離れる。 また布を被せ、音がした方を見れば手紙が落ちていた。 父のだろうか。 一瞬、中身を見るか躊躇した。だが彼は封筒から便箋を取り出した。中身を見れば恋文だった。 貴方に逢うために紅を塗りました。今日貴方に逢いたいのは、空が青いからです。 そんなような内容だった。恋文に縁がない彼には、到底理解が出来ない。彼は手紙をダンボールの中に入れ、整理を再会する。 時間も忘れて、部屋が暗くなるまで整理をしていると布と畳の擦れる音が聴こえた。 使用人が来たのかと振り返れば、真っ赤な着物を着た綺麗な女性が立っていた。 「失礼ですが、どなたですか?」 一瞬見惚れてしまった。だが、こんな使用人はいないはずだ。使用人が勝手に入れてしまった客人だろうか。 「こんばんは。貴方に逢いに来ました」 誰だ。こんな綺麗な人は知らない。 彼は彼女をジッと見つめるが、やはり覚えはない。 「また、逢えます」 彼女は微笑を浮かべるとスーッと闇に消えていった。 なんだったんだろう。 翌日も整理をしていた。ふとあの姿見が気になり、布を取る。 鏡の中には、彼ではなく真っ赤な着物を着た綺麗な女性が映っていた。 2009.10.09 |