こっそり | ナノ

誰も知らない

いつからか、少女は旅に出ることを考えた。
誰にも何も言わず、旅に出たかった。その際、家族・友人・知人…皆の記憶から、自分という存在が消えてしまえばいい。そしてそのまま、死んでしまいたい。そう、少女は考えていた。
その願いは、ある日突然叶うことになる。
少女宛に手紙が届いた。宛名だけ書かれた、差出人も住所も書かれていない封筒。
『アナタの願いを叶えます。アナタの願いをこの便箋の裏側に書いてください。』
それだけ書かれた便箋。少女は疑いながらも、願いを便箋の裏側に書き込んだ。
当然何も起こることもない。
少女は便箋の文字をもう一度読もうと裏返す。すると文字が浮かび上がってきた。さっきまで書かれていなかったはずの文字。
『承諾しました。明日午前零時には、その願いが叶うことでしょう。それでは、よい旅を。』
不思議なことに、驚くことはなかった。それどころか、少女はそれを信じてみたくなった。
午前零時、セットしていたケータイのアラームが鳴った。
少女が重い頭を上げるとそこは知らない場所だった。真っ白な空間。少女の近くには、リモコンがある。
少女はリモコンに手を伸ばし、1と書かれたボタンを押した。
突如目の前にモニターが現れ、そこに家族が写し出された。朝の風景。少女分の椅子も料理もない。会話に少女の話は出ない。
次は2のボタンを押した。
学校が映し出されたが、少女の席がポッカリと空いていた。椅子も机もない。だが誰も不思議がることはない。
少女は夢かと思い、自身の頬を思いっきりつねってみた。痛い。夢じゃない?
少女は急に不安になって、他のボタンを押した。
3は知人達だった。
4は少女の部屋だったはずの部屋。
5を押すと急に目の前が真っ暗になった。
起きていられなくなって寝転ぶ。少女はそのまま動かなくなった。体温がゆっくりと下がっていく。
誰もいない、真っ白な空間にひとり。
誰も、少女が亡くなった事を知らない。
誰も、少女を知らない。誰も。
2009.09.27

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