恋情恋慕 | ナノ




 座って待っているとしばらくして、八神くんがつまみを持ってきた。
 ちくわきゅうり――ちくわの穴にきゅうりを入れ、輪切りにしたもの。うずら串フライ――うずらの玉子に串を刺して揚げたもの。皿に盛られたお菓子。
 なんというか、てんでバラバラだ。
 どうぞ、と勧められちくわきゅうりを摘む。
 好きな女優さんがCMをやっている、カクテルチューハイのプルタブを開ける。
「出間さんは、お酒強いんですか?」
 梅酒を一口飲み、八神くんが聞く。
 俺は首を横に振り、チューハイを一口飲んだ。
「八神くんは?」
 あまり飲みすぎると勃たないから、ほろ酔い状態になったら行動に移そうか。
 八神くんを盗み見れば、手遊びをしている。
「俺もあんまり、強くないです」
 八神くんも首を横に振り、プルタブを玩ぶ。
「じゃあ、仲間だね」
 ね? と同意を求めれば、八神くんはぎこちなく頷く。
「俺たち結構合うかもね」
 少しずつ、顔を近づける。
息が掛かる距離になると八神くんは、スッと顔を顔を背けた。
「えっと、あの、近いです」
 玩ばれたプルタブが、バキリと音を立てて折れる。
「だめ?」
 囁くように、俺は言う。
「いや、あの、ダメです」
 また近づけようとした顔を手で止められる。
 唇に当たった手のひらに、軽くキスをするとビクリと震えた。
「わかった。じゃあ、一緒に寝るのは、だめ?」
 薬指に、そっと口を付ける。八神くんは泣きそうな顔で、俺を見る。
「……わかった。また、会ってくれる?」
 手から顔を離す。八神くんはあからさまに、ホッと息を吐いた。
 傷付くなぁ。
 八神くんは、小さく、コクリと頷く。
 連絡先だけ交換して、八神くん宅を出る。
 完全に興が冷めた。
 頭を乱暴に掻き、タクシーを拾う。
 こんなに拒否されるとは思わなかった。こうなったら、絶対八神くんとヤる。 もう一度頭を掻いて、運転手に住所を告げた。

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