3 座って待っているとしばらくして、八神くんがつまみを持ってきた。 ちくわきゅうり――ちくわの穴にきゅうりを入れ、輪切りにしたもの。うずら串フライ――うずらの玉子に串を刺して揚げたもの。皿に盛られたお菓子。 なんというか、てんでバラバラだ。 どうぞ、と勧められちくわきゅうりを摘む。 好きな女優さんがCMをやっている、カクテルチューハイのプルタブを開ける。 「出間さんは、お酒強いんですか?」 梅酒を一口飲み、八神くんが聞く。 俺は首を横に振り、チューハイを一口飲んだ。 「八神くんは?」 あまり飲みすぎると勃たないから、ほろ酔い状態になったら行動に移そうか。 八神くんを盗み見れば、手遊びをしている。 「俺もあんまり、強くないです」 八神くんも首を横に振り、プルタブを玩ぶ。 「じゃあ、仲間だね」 ね? と同意を求めれば、八神くんはぎこちなく頷く。 「俺たち結構合うかもね」 少しずつ、顔を近づける。 息が掛かる距離になると八神くんは、スッと顔を顔を背けた。 「えっと、あの、近いです」 玩ばれたプルタブが、バキリと音を立てて折れる。 「だめ?」 囁くように、俺は言う。 「いや、あの、ダメです」 また近づけようとした顔を手で止められる。 唇に当たった手のひらに、軽くキスをするとビクリと震えた。 「わかった。じゃあ、一緒に寝るのは、だめ?」 薬指に、そっと口を付ける。八神くんは泣きそうな顔で、俺を見る。 「……わかった。また、会ってくれる?」 手から顔を離す。八神くんはあからさまに、ホッと息を吐いた。 傷付くなぁ。 八神くんは、小さく、コクリと頷く。 連絡先だけ交換して、八神くん宅を出る。 完全に興が冷めた。 頭を乱暴に掻き、タクシーを拾う。 こんなに拒否されるとは思わなかった。こうなったら、絶対八神くんとヤる。 もう一度頭を掻いて、運転手に住所を告げた。 [戻る] [しおりを挟む] |