2 コンビニでお互い好きな酒を買って並んで歩く。 街から狭い道に入り、そこをずっと行くと現れた平屋の一戸建て。 「ここです」 八神くんに言われ、え? と声が出た。 「実家?」 親御さんと一緒に住んでいたら、困る。 「いえ。一人暮らしです。中古で安かったんで、ローン組んで、買いました」 若いのに一軒家買っちゃったのか。 住宅街から少し離れたそこに、八神くんは独り暮らししているわけだ。 お家を眺めた後、八神くんを盗み見る。無表情な顔からは、何も読み取れない。 「じゃあ、お邪魔しまーす」 俺が軽く言うと八神くんが慌て鍵を開けた。 ガラガラと音を立て、玄関のガラス戸が開く。 勧められたスリッパを履いて、八神くんの後に続いた。 奥に行くにつれ、懐かしい匂いがする。 「これ、墨の匂い?」 俺が聞くと八神くんは頷き、スンスンと空気の匂いを嗅いだ。 「うちで、書道教室やってるんです。近所の子供に、教えてるんです」 少し照れ臭そうに、それでも誇らしそうに、八神くんは言う。 そう言えば、自己紹介の時に「一応、書家をしてます」とか言ってたっけか。 「そこが居間なんで、座っててください。ツマミ用意します」 言って、八神くんは台所に向かう。 居間に行こうとしたとたん、ゴッと鈍い音がした。びっくりして振り返れば、八神くんが頭を抱えてしゃがみこんでいる。 どうやら、頭を打ったらしい。そもそも八神くんの身長に、この家は低いんじゃないかな。部屋の出入口や天井照明に頭をぶつけそうだ。 「八神くん、大丈夫?」 覗き込むように、八神くんの前にしゃがむ。 手によって、くしゃくしゃになった髪の毛の隙間から、目元が見えた。目付きの鋭いそれが、涙目になっている。 「ほら、冷やしなよ」 買ってきた酒の缶を額に当てる。 「いたいのいたいのとんでけ」 ぶつけたであろう、コブが出来てるところを軽く擦り、ポイッと空中に捨てる。それを二度繰り返したところで――あ、と気付いた。 「ごめん。いつもの癖で!」 案の定、八神くんはポカンと俺を見ている。 「保育士だから、怪我した子供によく……いや、八神くんが子供って言ってるわけじゃなくて」 言い訳するように言ったが、これでは余計八神くんが子供みたいって言ってるみたいだ。 「職業病って、やつですかね。ありがとうございます。もう、痛くないです」 気を使わせたような気がして、いたたまれない。 「つまみ、用意しますね」 言って、八神くんは台所に立つ。俺も居間へと向かった。 居間には、コタツが出ている。 まだまだ寒いからね。 [戻る] [しおりを挟む] |