恋情恋慕 | ナノ




 あ、コイツ仲間だ。
 高校時代の友人に、数合わせで無理矢理連れてこられた合コンの場。まさかこんなところで、お仲間を見付けるとは思わなかった。大方、彼――八神(やがみ)くんも数合わせなのだろう。
 正直、顔は好みではない。そもそも、髪がもっさりしていて目元が見えない。所謂きのこ頭というヤツだろうか。
 まぁ、背が高くて初そうで、一晩の相手にはいいかもしれない。
 女の子には愛想よく、テキトーにあしらいつつ、八神くんを盗み見る。積極的な女の子に捕まり、戸惑いながら、ボソボソと真面目に対応していた。
 トイレに立った八神くんの後を追うように、俺もトイレに向かう。
 洗面台の前で溜め息を吐く八神くんに、声を掛けた。
「大丈夫?」
 ビクリ、と肩を揺らし、八神くんが振り返る。
 あっはい、と頷き、八神くんはバツが悪そうに、首の後ろを撫でた。
「あの子、積極的だね」
 ニッと笑って言えば、八神が戸惑ったような声を上げる。

「俺、出間(いずま)。君は、八神くんだよね」
 よろしくね、なんて言って、軽く肩を叩く。八神くんはペコリと頭を下げた。
「八神くん、背高いね。何センチ?」
 勝手に話を進める俺に、アワアワしだす八神くん。今晩は、楽しめそうだ。
「えっと、193センチです」
 俺の質問に、八神くんは素直に答える。
 おっきいねぇ〜何て言いつつ、思わず股間をチラリと見た。きっと、こっちも大きいだろう、なんて期待に胸を膨らませる。
「こういうの苦手?」
 優しく問い掛ければ、八神くんは苦笑した。
「俺こういうの苦手なんだよね。」
 俺も苦笑して、伸びをした。そして、八神くんを見上げる。
「ねぇ、2人で抜けちゃおうか?」
 小声でいう必要もないのに、声を潜める。
 躊躇って頷いてくれない彼に、ね? ともう一度念を押すように問い掛けた。戸惑いつつも、八神くんは小さく頷く。
 早速八神くんの手首を掴み、そのまま引いた。トイレから出て、店を出る。
「先輩たちに言わなくていいんですか?」
 店の方をチラチラ振り返り、八神くんは言う。それでも、俺の手を振り払わない。俺は、八神くんに笑みで返す。
 スマホを取り出し、友人にメール送った。俺がゲイだと解ってて誘うのが悪い。
 すぐに電話がかかって着た。それを切って、電源も落とす。
「八神くんお家どこ? 俺の家、ここから遠いんだ」
 大通りに近付くと八神くんが、ソワソワとしだした。手首を解放してやれば、ホッと息を吐く。
「えっと、家は、ここから歩いて15分です」
 ゆっくり、咀嚼するように、八神くんは言った。
「めっちゃ近いじゃん。じゃあ、コンビニで酒買って八神くん家で宅飲みしよ。ね?」
「え? あ――家、逆です」

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