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とある三十路ふたり

※暴力

 目の前でぐったりする元同級生――武田を見下ろし、有瀬はため息を吐いた。
「お前さ、何やってんの? これヤンチャで済まされねぇぞ」
 爪先の尖った革靴で腹を蹴る。武田は苦しそうに呻き、有瀬を見上げた。
「罰、ゲーム……だしっ……仕方ない、よ」
 へにゃりと笑って見せた武田に、有瀬はもう一度腹を蹴る。
 酒の呑み比べで負けて、罰ゲーム有瀬が少し車から離れている間に金属バッドやら何やらで車をボッコボコにしたのだ。
「 罰ゲームで『フルスモーク貼りの高級車ぶっ壊せ』って言われて実行する奴は、テメェだけだバカ」
 どうしてくれんだよ、これ……
 有瀬の溜め息と呟きを武田は気にすることもなく、ゆっくりと体を起こす。
「アリちゃん」
 懐かしいあだ名で呼ばれ、ボコボコになった高級車から武田に目を向ける。
「中学卒業してからずっとヤのつく職業してるんでしょ? それこそヤンチャじゃ済まないでしょ」
「要点ずらしてんじゃねぇよ。だいたい、お前もういい大人だろ。三十路過ぎたヤツが何やってんの?」
 腹を再度強く蹴る。武田は腹を庇うように丸くなる。咳き込み出すとようやく蹴るのを止めた。有瀬はため息をついて、高級そうなスーツが汚れるのも気にせずに腰を下ろす。
「もう帰れ。二度とツラ見せんな」
 ポケットから煙草を出し、ジッポーで火を火を点け口に加える。それを武田はジッと見つめる。
「助けてくれるの?」
「勘違いすんな。オヤジに、カタギにやられたなんて言えねぇだけだ」
 それとも船乗るか?と言われ、武田は首を横に振る。
「三浦がさ。アリちゃんが、オレのこと好きだったって言ってた」
三浦は武田とよくつるんでいた元同級生だ。
「もしかして、だから助けてくれるの?」
何時になく真摯な態度で有瀬を問い詰める。有瀬は首を横に振り、立ち上がる。
「何年前の話だよ。さっさと、」
「この車、アリちゃんのだって知ってて壊した。最初からアリちゃんの狙ってた」
有瀬の言葉を遮り、武田は立ち上がり言った。頬に触れようとしたが、叩き落とされる。
「帰れ」
背を向けて携帯電話を取り出した瞬間、武田は舌打ちをし言った。
「そうだよなー。ま、10年以上も好かれてたら気持ち悪いしな。わかってたけど、つまんねぇの。殴られ損じゃん」
 有瀬の背中に向かって唇を尖らせる。有瀬は振り向きもせずに歩き出す。
「おーそりゃすまんかったな。二度とツラ見せんなよ」
 片手を上げて大通りへと消えた。
2011.05.01


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