体内気温上昇中 あつい。これが夏のせいなのか、目の前でお腹を出してフローリングの床に寝そべっている彼女に欲情してなのかは判らない。 ショートパンツから伸びる白い足は、床が暑くなるからか、もぞもぞと動かして暑いと呟く彼女に私の体感温度が上がる。 「エアコン付ける?」 汗で頬にはりついた紙を指で払い、エアコンを指差す。彼女はエアコンを睨み付けて、唇を動かす。 「嫌いなの、アレ。頭痛くなる」 忌々しいものでも見るように、目を細めて吐き捨てる。 「じゃあ扇風機は?」 今度は傍らの扇風機を足で指差す。 付けるって言ってくれ。いい加減目に毒だ。 だが、今度は私を睨みつける。意味が解らない私は、彼女を見つめ返すしかない。 「あたし、ハウスダストだめなの」 顔を顰めて言った。だから何なのだ。解っていない私の頬を彼女はグーで殴った。勢いもない弱いパンチが頬に当たった。痛くはない。 「そいつは、そんなあたしの敵よ。埃巻き上げるじゃない」 何て我儘な女だ。 彼女はまた暑いと呟く。本当にあつい。こうなったらうちわか。うちわなんて正直意味がないらしいけど。うちわを扇ぐという運動エネルギーは熱エネルギーに変わるらしいのだ。だが、この暑さを何とかしたい。運動エネルギーと熱エネルギーが何だ、知るか。いや、知ってるけれど。てか、勝手に許可なく変わるな。 本棚と壁の隙間からうちわを取り出す。埃が付いてたからティッシュを持ってベランダに出る。埃を落としている私を彼女は寝転んだまま見ている。いや、私じゃなくてうちわか。うちわを見ているんだ。これで扇げと言われるんだろう。理不尽だ。彼女は運動しないから、熱に変わらないわけだ。彼女は涼しいが私はどんどん暑くなっていく。彼女が女じゃなかったら殴りたい気分だ。 埃をだいぶ落とすと部屋に戻る。丸めたティッシュをゴミ箱へと投げ入れて、彼女の隣に座る。彼女は今か今かと人工の風を待つ。私は彼女ごと自身を扇ぐ。生温い風が肌を撫でる。 「暑い」 彼女はまた呟く。何だか口癖みたいだ。 「プールでも行く?」 私の提案に、彼女はすぐに私に顔を向ける。そして、本日初めての笑顔を浮かべた。行く、ということだろう。 「そういえば水着は?」 起き上がった彼女が不意に言った。 水着なんてないぞ。いや、あるにはあるがスクール水着だ。 「ない」 「買いに行きましょ」 言うが早いか、彼女は私の腕を引く。半ば引き擦られるように部屋を出た。 外に出れば、電子レンジにでも入ったかのように暑い。入ったことないけど。 あっでも……彼女の水着なんて見たら、もっとあつくなっちゃうかもな。 2009.07.19 にやり ← |