面倒なことになった 薄暗い部屋で2人きりで食事をしていた。そうしたら彼女――いや、彼は僕を好きだと言って、頬を染めた。 彼の身体は女の子のそれだ。だが心が、男なんだそうだ。所謂、性同一性障害というやつらしい。 そしてそんな彼は、僕を好きだと言ったのだ。ホモなんだそうだ。 「僕はホモじゃないんだ」 「ああ、知ってる。っていうかホモじゃなくて、ゲイね」 ホモだろうがゲイだろうが一緒だろう。 「一緒じゃない。気分的に全然違うんだ」 僕はよっぽど顔に出ていたのだろう。何も言っていないのに、彼は言った。 僕は、目の前のすっかり冷めきってしまった肉に口をつける。冷めても美味いな。何の肉を使ってるんだろう。 「君が断ることはわかっていた。でも私は諦める気はない。君が女性しか恋愛対象にならないことは解っている。なら私もその恋愛対象に入るんじゃないだろうか?」 彼がこんなにも饒舌に話すところを初めて聞いた。 「うん。確かに君の身体は女の子だ。胸だって大きいし、とってもキュートだと思う。でも心は男なんだろ?身体的にはノーマルかもしれないが、精神的には男同士じゃないか」 細かいことをと言われるかもしれないけれど、僕は案外繊細なんだ。 「だいたい、君は耐えられるのかい?僕に女の子のように愛されるんだよ?」 実際問題、考えてみて欲しい。男が男に女の子のように愛される、あり得ないだろう。僕だったらその男を殴るだろう。 彼は考えているのか、眉間を顰めている。 「……耐える」 凄く嫌そうに聞こえたのは気のせいだろうか。 「ほら、嫌なんじゃ……」 「嫌だけど耐える!私は本気なんだ」 いや、本気なのは解ってるつもりだ。 こんなに食い下がってきても、どうしよもないだろうに。 「わかった、わかった。いいよ、付き合おう」 僕の溜め息混じりの言葉に、彼は目を輝かせる。何だか罪悪感に苛まれた。 2011.04.13 ← |