ショッキングピンクの衝撃 死にたい、と思った。 毎日のように、思っている。惰性となったそれとは、今回は違った。本当に、死にたいと思ったのだ。 思い立ったら吉日だ、と誰かが言っていた気がする。 直ぐに立ち上がって部屋から出た。部屋を汚したくはない。鍵は掛けなかった。どうせ、戻ってくることはない。 もう何年も出ていなかった外の世界は、やっぱり汚かった。汚物を棄てるには、やっぱり外がいい。俺の汚い死体は、外に棄てる。 フラフラと歩いていると人とぶつかった。汚い。 ブワッと鳥肌が立つ。身体中が痒くなった。気持ち悪い。 「おい、ぶつかっておいて謝んねーのかよ」 ドンッと強く肩を押される。吐き気がし、口許に手をやった。 俺の肩を押した奴の後ろには、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた奴がいる。その奥のショッキングピンク色をした頭の男だけは、無表情に俺を見ていた。 「シカトしてんじゃねーよ」 腹を蹴られ、迫り上がってきたモノを吐き出す。 汚い奴等が、俺の吐いたモノを汚いと笑った。 ああ、本当に汚い。 「きったねーなぁ。クリーニング代と慰謝料は貰ってくからな」 ポケットに入っていた財布から札が、全部抜かれる。 チラリと見上げれば、ショッキングピンクと目が合った。目を細め、唇を嘗める。それが気持ち悪くて、また吐いた。 「オレ、こいつと遊ぶー」 ショッキングピンクが近づいてくる。 「始まったよ。物好きさんねぇ、お前も。殺すなよ、めんどくせぇし」 さっきまでショッキングピンクの隣にいた奴がそう言い、他の奴等を連れて行ってしまった。 ショッキングピンクは俺の前にしゃがみ、手を差し出してくる。俺はそれを無視して身体を起こした。 スッと口許に手が伸びてくる。衝撃に備えて目を瞑った。 しかし、衝撃がくることはなく、口許を拭われる。 そっと目を開れば、ショッキングピンクは嘔吐物の付いた指を嘗めていた。 更に吐こうとすると顔を近付けてくる。顔を反らそうとすると顎を掴まれ、唇を合わせられた。舌を入れらる。嘔吐物を絡めらめ取られた。 ようやく口が離れた時には、鳥肌と蕁麻疹で身体全体で拒否反応を起こす。呼吸も荒くなってきた。 「あー大丈夫?」 軽い調子で心配され、背中を撫でられる。 汚い。 汚い――ッ! 呼吸が浅い早いものになる。 苦しい。 激しく上下する肩を掴まれた。 「大丈夫」 ショッキングピンクが、力強く言った。何が大丈夫なのか。何を根拠に言うのか解らないが、肩を離してほしい。 ショッキングピンクは、ズボンのポケットから紙袋を出す。それをそのまま口許に当てられた。 「ゆっくり息して」 苦しすぎて、素直にショッキングピンクに従う。 ゆっくりとした呼吸を繰り返すうちに、楽になってきた。 また背中を擦られそうになり、その手を振り払う。 「触るな汚物」 久しぶりに声を出したせいか、掠れた小さな声しか出なかった。 「あーうん。ごめんね」 ショッキングピンクは苦笑し、軽い調子で謝った。 子供扱いされているようで、不愉快だ。 口に当てられた紙袋をショッキングピンクに、投げつける。 「死ね汚物!」 それだけ吐き捨て、俺はその場から離れる。 俺ではなく、アイツが死ねばいい。 2013.06.25 ← |