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ナルシストの無駄な気力


俺が好きだ、だなんてアホな事を言ってくる隣の席ヤツ(寺嶋)はジッとこっちを見ている。いや、窓の外か。真面目に授業受けろよ。
「桃井」
名前を呼ばれ、あ?と黒板を見つめたまま返事をする。
「僕が呼んでるんだ、こっちを見ろ。美しいぞ」
あーはいはいと流して、黒板に新たに書かれた文字をノートに書き写す。
 美しいだなんて、よく自分で言えるな。理解出来ない。いや、確かにイケメンだとは思う。思うけど、普通自分で言うか?俺は言えないね。俺は顔悪い、性格悪い、頭悪い、三拍子揃ってる。
「何だ、かっこよすぎて眩しいか?」
カッコイイデスヨ。すげーかっこいいとは思いますよ。イケメン滅びろ。あれ?俺よりかっこいいヤツ、皆滅びたら俺ハーレムじゃん!よし、今すぐ滅びろ!
「桃井」
もううるせぇな。
漸く寺嶋の方を見た。もちろん目が合う。
何だ、その無駄な目力。こっちみんな。
「何だよ?」
堪えきれずに、催促する。
「好きだ」
今授業中だぞ、馬鹿野郎!ホラ見ろ!クラス中がこっち見てんじゃねぇか。先生も固まっちゃったじゃないか。勘弁してくれ。とりあえず聞かなかったことにする。
 ざわざわと騒ぎ出す生徒に、先生が静かにしろと言って何事もなかったかのように授業を進める。よしきた。
「桃井、返事」
 人がせっかくなかったことにしてんのになんなの?
いや、それに何度もコクられたけど断ったじゃん!
「何度言ってるけど、俺女の子が好きだから」
また前を見て黒板の文字をノートに写す。
寺嶋はそうかと言って、ノートを書き始めたようだった。
妙な雰囲気のまま授業は終わった。あまりの静かさに、息が詰まりそうだった。
「桃井、君が女の子が好きだろうと好きだから」
寺嶋はそれだけ言い、教室から出ていった。
まだ諦めないのか。その気力、別に使えよ。諦めることも大事だと思う。
2011.04.11


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