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母の日記念2

 目を覚ますと部屋の中は薄暗かった。
 集中なんて出来なくて、いつの間にか畳まれた布団に頭を乗せて寝ていたようだ。
 身体を起こすと、タオルケットがお腹に掛かっていることに気付く。伯母が掛けてくれたのだろう。
 慎司はタオルケットを畳んで布団の上に置いた。
 まだボーッとする頭で、慎司は部屋から出る。仄かにいい匂いがした。薄暗い廊下を匂いを辿って歩く。辿り着いた場所は台所だ。
 暖簾の掛かった台所を慎司はそっと覗く。伯母が料理をしていた。
「まだ、出来てないよ」
 慎司に気付いた彼女は、微笑を浮かべて言った。
「あ……えっと、手伝うよ」
 昔は呼んでいた彼女のあだ名を呼びそうになり、気恥ずかしくなる。結局呼べなくて、尻窄みになった。
「ありがとう。じゃあ、ご飯よそって」
 しゃもじを渡され、慎司は頷く。お茶碗は2つ、既に炊飯器の横にあった。
 炊飯器の中には1合の米。それを半分ずつよそう。1合のご飯は、2人には多いらしく、2つのお茶碗は山盛りだった。
 山盛りのそれと端を2善テーブルに並べる。
「ありがとう」
 彼女はニッと笑って、慎司の頭を撫でた。頭を少し振って拒否すると彼女は更に撫でてくる。諦めてされるがままになれば、髪の毛がグシャグシャになるまで撫でられた。
 出来たおかずもテーブルに並べられ、向かい合って座る。
「この後、花火でもやるか。都会じゃ出来るとこ少ないだろ?」
 すぐ消防車呼ばれそう、なんて言って、彼女は笑う。
 慎司が住んでいる町は、都会とは言えない。更に花火が出来るところがないわけではないのだが、慎司は頷いておいた。
 伯母が、わざわざ花火を買ってきてくれたのだろう。これからお世話になるのだ。気まずくはなりたくはない、と慎司は考える。
 夕飯を終え、洗い物を手伝った。そして、2人で縁側から庭に出る。
 2人でやるには、量が多いようだった。
 伯母は煙草の火を点け、花火の先の紙を取る。それを慎司は不思議そうに眺めた。
「何で紙、取っちゃうの?」
 花火の先を指差し、彼は首を傾げた。
「ああ、これは花火が誤爆しねぇように付いてんだよ。これは取って点けた方が、点火は早いんだ。ちなみに、ハナビラって言うんだと」
 伯母はそういうと慎司に、ほれ、と花火を渡す。
 蝋燭に火を点け、伯母は花火を始めた。慎司も慌てて、花火に蝋燭の火を近づける。
 慎司は、綺麗なそれをただ黙って見詰めた。
「せっかくこんな田舎に来たんだ。勉強の息抜きに、楽しんでけよ」
 彼女の言葉に、慎司は頷く。
「そうだ。来年は蛍でも一緒に見るか。綺麗だぞ」
 心底楽しそうに話す伯母につられ、慎司も口許を緩める。頷くとまた頭を撫でられた。
2013.05.13
母ではないし、遅刻ですが、母の日記念


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