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心中


 オレンジ色と紫色の雲が、流されていく。
 昨夜降った雨のせいか、風が強い。雲の流れも速くて、なんとなく淋しい。
「栄田(さかえだ)」
 名前を呼ばれ、空を見上げていた顔を下ろす。少し前を歩いていた桐山(きりやま)が、俺に手を差し出した。
「どうしたの?」
 いつもなら外で手を繋ぐなんて事をしない。人通りがなくても何かに怯えるように嫌がったのに。
 ザワザワと胸が落ち着かなくなって、桐山の顔を覗き込む。薄暗くて、表情がよく見えない。
「さむい」
 マフラーで埋もれた口から、発せられたそれ。
 俺は大人しく、手を伸ばす。触れ合った掌が思った以上に冷たかった。
「これからどうしようか」
 当てもなく、ただ北まで逃げてきた。まるでドラマの犯罪者みたいだ。それが、あながち間違いではないのがまた、いやになる。
 思わず自嘲が漏れた。それを桐山に見咎められる。怪訝そうな桐山に、首を振って何でもないと伝えた。納得いかなそうな顔をしていたが、深くは聞いてこない。
 お互いの両親にゲイだってバレて、ここまで来た。
 油断――いや、浮かれていたのだ。
 親が共働きだった俺の家に、毎回桐山を招待していた。その日は両親の帰りが遅いからと調子に乗って、リビングでキスをしているところを母親に見られた。
 それから大変だった。
 お互いの両親を呼ばれ、尋問された。
 最初は誤魔化そうか、なんて考えたけど、苦しいから止めた。もう、嘘を吐くのが、疲れていたんだと思う。
 俺が、肯定したときの両親の顔が――目が忘れられない。
 当たり前だ。ここまで大事に育ててくれたのに、まともに育たなかった。そればかりか、桐山まで巻き込んだ。当然の報いだろう。
 ぎゅっと桐山の手を握る。握り返され、ふふっと声が漏れた。
 つないだ手を振って歩く。少し恥ずかしそうなのに、桐山は手を離さなかった。それをいいことに、俺は桐山の手を握ったまま、走る。
 もういっそこのまま、死にたい。このまま2人きりで死んでしまえたらいい。
2013.03.06 即興小説トレーニングUP
お題:永遠の星
2013.05.07 加筆修正サイトUP


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