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きみとのみらい2


 会社に、いつも通り出勤する。フロアを一瞥し、自分の席に座った。
 酷い顔色だが、芦原は来ているようだ。
 視界の隅で、芦原がこちらを見ているのがわかる。また気付かないフリをして、今日のスケジュールを確認した。
 仕事中、芦原は何度か何か言いたそうな視線を感じる。前に公私混同するな、と叱ったことを覚えていたようで、結局就業時間まで必要最低限のことしか会話しなかった。
 俺が帰りの支度をしていた時に、芦原が近付いてくる。
「美山部長。この後、お時間よろしいですか」
 言葉は丁寧だが、有無を言わさぬ口調で芦原は言う。俺は芦原を一瞥し、ああと頷いた。
 お互い、社内じゃ話しづらいことだ。必然的に飲みに行く体で会社を後にする。
 出るときに部下や同僚からの誘いを受けたが、大事な話があるからと断った。聞かれるのは、まずい。
 結局、どちらかの家で話すことになり、俺の部屋に誘った。
 リビングに芦原を待たせ、俺は自室で部屋着に着替えリビングへと向かった。
 飲み物は、冷蔵庫で冷えていたビールにする。
 お互い向かい合って座り、1つ息を吐いて俺から口火を切った。
「頭は冷えたか」
 言って、一口ビールを飲む。
「僕は逆上せてるわけじゃありません。真剣に、考えた結果です」
 俺の目を見て、芦原は言う。
 芦原の顔をまじまじと見た。昨日も見たのに、久し振りに見た気分になる。
 朝同様、いや朝より酷い顔色だ。きっと昨日寝てないのだろう。
 ビールにまた口を付けた。
「そうか」
 頷いて、もう一口ビールを飲む。
 芦原は、ビールに一切手をつけていない。
「別れよう」
 フッと自然に、笑いが込み上げてきた。笑顔で言う俺を芦原は、引き攣った顔で見ている。
「別れよう」
 追い討ちを掛けるように、もう一度言った。
「な、んで?」
 掠れた声で、芦原は問う。
「おもい。重いんだよ」
 言い聞かせるように、二度言った。
 そして、もう一口飲む。もう缶の中が空だ。冷蔵庫まで取りに行く。
「べつに、別れなくてもいいじゃないですか? もう、結婚しようなんて、絶対に言いませんから」
 縋るような目で、声で、芦原は言う。
「べつに、別れなくてもいいじゃないですか」
 泣き出しそうな顔で、芦原はそう、念を押すように言った。
 俺は、缶のプルタブを見つめ、首を横に振る。
「もう、無理だよ」
 俺が黙ってビールをグビグビ飲んでいるうちに、いつの間にか芦原は居なかった。また笑いが込み上げて来る。独りきりの部屋に、俺の笑い声だけが響いた。
2013.03.15


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