きみとのみらい 深夜0時。自宅のインターホンが鳴った。 こんな時間になんだ? 独り言を呟き、玄関へと向かった。 ドアスコープを覗く。真っ赤な薔薇を大事そうに抱え、そわそわしている見知った男――芦原(あしはら)が立っていた。 俺の部下であり、恋人だ。 思わず頭を抱え、ため息を吐く。 嫌な予感しかしない。 仕方なく開けてやる。 薔薇のつよい香りが、鼻を刺激した。 「今、何時だと思っている。帰れ」 腕を組み、鼻であしらう。 芦原は眉尻を下げ、頭を下げた。 「ぶ、無礼は承知でござりまする!」 日本語がおかしい。更に声が大きい。ご近所さんに迷惑だ。 「入れ」 腕を掴んで部屋に上げた。 好きなところに座るように言い、珈琲を淹れる。 キッチンカウンター越しに、芦原を盗み見た。緊張しているのか、ピンと背を伸ばしている。肩も少し上がってるように見えた。 あまりのガチガチっぷりに、こちらまで緊張してくる。 このバカは何を考えているのだろう。 「熱いから気を付けろよ」 専用のマグカップを目の前に置いてやり、向かいに座る。 芦原は早速マグカップを口に付け、あっつ! と声を上げた。 言ったそばからこれだ。 「だから言っただろ」 手元に用意していたタオルで、口許や胸の辺りを拭いてやる。 顔や耳が真っ赤になるのを見て、口許が緩んだ。 「美山(みやま)さん!」 拭っていた手を掴まれる。 「僕と結婚してください!」 ギュッと手を強く握られ、まっすぐ俺を見て芦原は言った。そして思い出したように、慌てて横に置いてあった薔薇の花束を渡される。 「――日本じゃ結婚はできないぞ。バカだな」 言って、薔薇の花束を花瓶に入れるために立ち上がった。 手を掴まれ、引き留められる。 「知ってます! だから養子でもいいです。それが駄目なら、事実婚だっていい」 真っ直ぐに、俺を見つめる。 掴まれた手を引こうとすると余計力を加えられた。 「好きなんです」 泣きそうな顔で、芦原は言う。 そんな顔、するなよ。 ゆっくり芦原の手をはずす。追ってくる手に気付いたが、知らないフリをしてキッチンへと逃げた。 「今日は、遅いから帰れ」 花瓶に水を入れながら言う。 「頭冷やせ」 芦原が何かを言う前に、牽制するように言う。芦原の気配が消えるまで、顔はあげなかった。 花瓶の薔薇をリビングのテーブルに置き、ベッドへ向かた。 → ← |