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駄目人間のバレンタイン

駄目人間(駄目青年×駄目中年/恋愛?)の続編。

 駅から自宅までの帰路を走る。
 もう既に15日で、嶋(しま)さんがチョコレートを用意してくれている訳がないのだけど、希望を持ちたいな、なんて。
 小さなアパートのちいさな部屋に、ただいまと言って入る。
 上がっている息を整え、リビングに入った。
 テレビがつけっぱなしだ。テーブルの上にはビールの空き缶が、何本も立っている。
嶋さんは寝ているのか、ソファーのひじ掛けに頭が乗っていた。
 寝顔を見ようと覗き込む。
 嶋さんは、マーブルチョコレートを握りしめて、口を開けて寝ていた。
 手の中のそれに、少し不安になる。誰かから貰ったんだろうか。
 寝ている嶋さんの頬にキスして、チョコレートを握りしめている指をゆっくり外す。
「……洋一(よういち)?」
 チョコレートを取り上げると嶋さんが起きたのか、俺を呼ぶ。
「風邪引きますよ」
 言って、また嶋さんの頬にキスした。
「ん。……あ、ソレやる」
 目を擦りながら起き上がり、チョコレートを指差し嶋さんは言う。
「え? これ、俺にですか?」
 手の中にあるマーブルチョコレートを眺める。
「いらないからやるよ」
 伸びをしながら、嶋さんは言う。
「ありがとうございます」
 どうしよう。嬉しくて食べられない。
 今度は嶋さんの額にキスをする。
「お前、しつこい」
 俺の胸を押し退け、嶋さんは立ち上がった。
 俺はお預けされた犬のように、嶋さんの顔を見る。
「先に寝るからな。さっさと風呂入ってこいよ」
 嶋さんはそう言って、寝室に行ってしまった。
 残された俺はまた、手の中のマーブルチョコレートを見つめる。ぎゅっとそれ握りしめ、ソファーへとダイブした。
2013.02.17


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