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「お前、あれどうしたんだ」
 地面に並べられたサドルたちを指差す。
 円に並べられたいくつものサドルの数は、盗まれた数と一致していた。
 浅尾はああと頷き、口を開く。
「君の自転車さんから拝借したものだよ」
 ああ、やっぱり犯人はコイツだったのか。
 落ち着かせていた怒りが、ふつふつと頭を上る。
 平澤は立ち上がり、浅尾の胸ぐらを掴んだ。
「あのふざけた野菜もお前だったんだな? あ?」
「ああ、もちろんだとも!」
 力いっぱい肯定する浅尾の顔を力いっぱい殴った。
「ふざけた真似しやがって」
 倒れ込んだ浅尾を平澤は蹴る。
「気に入ってくれると思ったんだが」
 地面に横たわったまま、浅尾は首を傾げる。
「ねーよ」
「おかしいなぁ。君の自転車さんと相談しながら野菜や花を選んだんだ。彼女は嘘を吐いていたのかな?」
 意味の解らないことを言う浅尾を見下ろし、平澤はため息を吐く。
「さっきから意味わかんないこと言ってんじゃねぇよ」
 もう一度蹴ると浅尾はそれを受け止め、平澤の足を地面に置く。そして立ち上がた。
「全く残念だ。じゃあ今度は、君に直接聞いてみようか――平澤優人くん。僕は君が好きなんだけど、どうしたら僕を好きになってくれるかな?」
 とん、と左胸に人差し指を置き、浅尾は言う。
「は?」
 間抜けな声をあげる平澤に、浅尾は笑みで返す。
「好きなんだ、君のことが」
 浅尾は言い、平澤の手を握る。一緒に木の枝を握り込まされた。いい香りがし、それが金木犀だと気付く。
「うっとりしてるとこ悪ィけど、気持ち悪い」
 浅尾の手を振り払い、平澤は距離を取る。
 気持ちが悪い。
 平澤は鳥肌が立った肌を服の上から撫でる。
「そうか。残念だ」
 浅尾はうーん、と唸りながら並んだサドルたちを拾い上げる。
「じゃあ、作戦を変えるとするよ。楽しみにしててくれ」
 そう言い残し、浅尾は校舎へと消えていった。
 サドルを返せとも言えず、平澤はその場で身震いをする。次に会ったら、二度と近づいてこないようにしよう、と心に決めた。
2012.11.06
企画小説ボツネタその1
電波っていうより、変人になりました。


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