3 「お前、あれどうしたんだ」 地面に並べられたサドルたちを指差す。 円に並べられたいくつものサドルの数は、盗まれた数と一致していた。 浅尾はああと頷き、口を開く。 「君の自転車さんから拝借したものだよ」 ああ、やっぱり犯人はコイツだったのか。 落ち着かせていた怒りが、ふつふつと頭を上る。 平澤は立ち上がり、浅尾の胸ぐらを掴んだ。 「あのふざけた野菜もお前だったんだな? あ?」 「ああ、もちろんだとも!」 力いっぱい肯定する浅尾の顔を力いっぱい殴った。 「ふざけた真似しやがって」 倒れ込んだ浅尾を平澤は蹴る。 「気に入ってくれると思ったんだが」 地面に横たわったまま、浅尾は首を傾げる。 「ねーよ」 「おかしいなぁ。君の自転車さんと相談しながら野菜や花を選んだんだ。彼女は嘘を吐いていたのかな?」 意味の解らないことを言う浅尾を見下ろし、平澤はため息を吐く。 「さっきから意味わかんないこと言ってんじゃねぇよ」 もう一度蹴ると浅尾はそれを受け止め、平澤の足を地面に置く。そして立ち上がた。 「全く残念だ。じゃあ今度は、君に直接聞いてみようか――平澤優人くん。僕は君が好きなんだけど、どうしたら僕を好きになってくれるかな?」 とん、と左胸に人差し指を置き、浅尾は言う。 「は?」 間抜けな声をあげる平澤に、浅尾は笑みで返す。 「好きなんだ、君のことが」 浅尾は言い、平澤の手を握る。一緒に木の枝を握り込まされた。いい香りがし、それが金木犀だと気付く。 「うっとりしてるとこ悪ィけど、気持ち悪い」 浅尾の手を振り払い、平澤は距離を取る。 気持ちが悪い。 平澤は鳥肌が立った肌を服の上から撫でる。 「そうか。残念だ」 浅尾はうーん、と唸りながら並んだサドルたちを拾い上げる。 「じゃあ、作戦を変えるとするよ。楽しみにしててくれ」 そう言い残し、浅尾は校舎へと消えていった。 サドルを返せとも言えず、平澤はその場で身震いをする。次に会ったら、二度と近づいてこないようにしよう、と心に決めた。 2012.11.06 企画小説ボツネタその1 電波っていうより、変人になりました。 ← |