2 翌日。平澤は授業をサボるために、特別教室へ続く渡り廊下を歩いていた。 ふと中庭に目を向ける。 もうすでに授業開始のチャイムが鳴ったにも関わらず、男子生徒が一人何か作業をしていた。 大きな円を描くように、何かを並べている。 平澤はそれに目を見張る。男子生徒が並べているものに、見覚えのある。そうまるで――自転車のサドル――のように見えるのだ。 カッとなる頭を落ち着けるように、平澤は息をゆっくり吐く。 とりあえず話を聞きに行こうと来た道を引き返し、階段を降りた。 靴に履き替える事もなく、中庭に出る。 「おい」 思ったよりも低い声が出た。平澤は再度息をゆっくりと吐く。 平澤の呼び掛けに振り返った男子生徒の表情が、パッと明るくなった。 「これからUFOを呼ぼうとしてたのに、UFOより素敵なものを呼んでしまったようだ」 ほら、おいで! と男子生徒が平澤の手を握り、ベンチへとエスコートする。 ベンチに座り、男子生徒の勢いに圧倒され、何も反応できなかった平澤が我に帰った。握られていた手を振り払う。 「機嫌が悪いのかい?」 隣にぴったりと座った男子生徒が、心配そうに顔を覗き込む。 「近い」 男子生徒の肩を押し、平澤自身も離れる。 「おや、失礼」 平澤との間を1人分空け、男子生徒はベンチに座り直した。 「そういえば、自己紹介をしていなかったね。僕は浅尾桜子(あさおおうじ)」 浅尾桜子――聞いたことのある名前に平澤は浅尾を見た。 いつだったか、生徒指導室で担任に説教されているときに、聞いた名前だ。 お前と原口と浅尾、3人もの問題児を担任しなきゃいけないなんて、と。 担任が頭を抱えて言っていた。 クラスメイトらしいが、浅尾の顔に、覚えはない。 覚えはないが、顔を見るまでは女だと思っていた。桜子で、おうじと読むのか。所謂キラキラネームというやつかもしれない、と平澤は思う。 「君は平澤優人くんだね」 にっこりと笑い、浅尾は言う。 「さて、平澤優人くんは僕に何の用だろうか?」 さぁ言ってごらん、と言うように両腕を広げた。 → ← |