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name


 朦朧とする意識の中、俺は――ああ死ぬのか――と悟った。
 四肢はもう、斬り落とされてない。立ち上がることが出来ない。
 俺は、名前に、運命に、負けたんだ。
 母が付けてくれた名前は、正義と書いてマサヨシだった。
 ――貴方の正義を貫いて欲しい。
 それが、名前に込めた名前だった。
 自分の願いを押し付けるべきじゃないと言われたこともあるらしいが、感謝している。少なくとも俺には、この名前は誇りだった。
 何が正しくて、何が間違ってるとかよくわからないけど、俺は自分が正しいと思うことをやってきた。それが喩え、エゴだとしても、他人から見たら偽善だと思われようと――。
 ――だから目の前の男を倒そうと思った。結局はこうやって倒されているのは、俺だったけど。
 後悔はしていない。死ぬのは怖いし、嫌だけど俺は間違ってない。
 ぼんやりとしか映さない目に、男が笑っているのが見える。何か言っているようだが、もう聞こえない。
 戦闘中に鼓膜が破れたから、だけじゃないだろう。たぶん、もう意識を保っているのがやっとなんだ。
 そういえば、昔見たアニメで、首を落とされても最期の力を振り絞って相手の腕を咬み千切った犬がいたな。
 アレはかっこよかった。それを見て、俺はこんな風になりたいと思ったっけ。
 気付けば叫んでいた。喉が切れたのか、痛みと共に口から血を吐き出す。
 あるはずのない手足を動かし、立ち上がる。多分負ける。いや、もうとっくに負けてた。それでも、俺は正義を貫きたい。
 更に叫んで、男の足に噛み付いた。この男に、一生残るような傷痕を遺すために、強く、強く、顎を閉じる。
 背中に男の武器が刺さる。そして、耳元で肉が裂かれる音がした。
2012.07.16


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