目撃者 放課後のオレンジ色に染まった廊下を歩く。向かう先は、音楽室。 先程からピアノとアコースティックギターの音が、聴こえている。誰が弾いているかは、わからない。ただ綺麗なそれに、誘われるように足を進めていた。 音楽室の扉は、閉まっている。それを少しだけ開けて、中を覗く。 ――――あ 思わず息を飲む。 ピアノを弾いていたのは、僕のクラスの担当数学教師だ。その横顔に、何時もの冷たさはない。ギターを弾いているのは、後ろ姿しか見えないが、多分生徒だ。 見ては、いけないものを見た。多分、アレは――恋人同士だ。 男子校とはいえ、マイノリティだ。況してや生徒と教師なんて、許されない。 音を立てないように後ろに退がる。そっと扉を閉めて、足を動かした。 逸り立つのを抑え、廊下を歩く。 階段まで来ると駆け下りた。ここまで来たら、もう音を出しても大丈夫だろう。 何も見なかったし、何も聴かなかった。 2012.07.15 ← |