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目と目があったら恋の始まりでしょう?


 橙色に染まった教室。
 鍵付きロッカーに、わざわざピッキングまでして手紙を入れたやつが指定した空き教室。
 手紙には、ここで待っていると書かれていたが、教室には俺しかいない。
 窓際の席に座り、外を見る。
 随分と日が長くなった。ちょっと前まで、この時間はもっと暗かった。
「遅くなりました、センパイ」
 声を掛けられ、振り返る。
 知らないやつだ。たぶん。上履きの色を見ると赤色だ。一年生か。一つ後輩だ。
 顔覚えはいい方ではないから、もしかしたら知ってるやつかもしれないけど。
「もう降参! センパイ、ぜっんぜん言ってくんないんだもんなー」
 は?
「俺はお前が何言ってんのか、全然わかんないんだけど」
 主語はどこだ。話すときは、相手に解るように話せ。
「もうセンパイ、計算? はいはい、もうお手上げ。俺も好きですよー」
 妙に耳障りなしゃべり方をする奴だ。言っている意味もさっぱり解らなくて、余計に腹立つ。わざわざ呼び出しに応じてやったが、無駄足だったかもしれない。
「用ないなら帰るわ」
 わざと大きな音を立てて立ち上がる。
 溜め息を隠すこともなく吐き、一年の横を通り過ぎようとして腕を掴まれる。
「ちょっと、引いてばっかじゃ恋愛は成り立たないじゃないすか。俺が告白してやったんですよ。ここは恋人になってハッピーエンドっしょ」
 誰かバイリンガルか何か持ってないか。人間の言葉に聞こえなかったんだが……つうか聞きたくないし、解りたくない。何言ってんのかマジでわかんね。頭を抱えたくなった。
「意味わかんねぇよ。気色悪、」
 右頬にすっごい衝撃が走った。じわじわと頬が熱くなる。右耳もなんだか聞こえにくく感じる。叩かれたのか。
 それを理解して、カッと頭に血が昇る。
「テメェ何しやがる」
 胸ぐら掴んで近くにあった机の上に押し付ける。
「何でセンパイが怒んの? 怒ってんの俺だからね。照れ隠しにも程があるっしょ。何なんすかその態度」
 胸ぐらを掴んだ腕を掴まれる。
 何なんだよコイツ。
「最初は可愛かったのにねー。そんな不良な形で照れ隠しとか、ちょー可愛いけどさ。なんなんすか、今の態度は。痛くしなきゃ解んないですか? ねえ?」
 瞳孔を開いて、じっと俺を見てくる。薄暗いからかもしれないけど、気味が悪い。
 ゾワッと背筋が震えた。
 やらなきゃやられる気がする。とにかく、コイツから逃げないとヤバイ。俺、あんま喧嘩強くねぇし。
 先手必勝だろ。殴って動けないようにしよう。そんなことを知ってか知らずか、一年が首に手を回してきた。指が首に絡む。
 ヤバイと思った時にはもう遅くて、ぐっと力を込められた。
 死ぬ死ぬ
 胸ぐらを掴んでいる手に力を込め、空いている手を一年の股間に持っていき、思いっきり握る。同時に胸ぐらの手を放した。
 呻き声をあげて股間を押さえてる間に離れる。
 早く逃げねぇと死ぬつーのに、急に酸素が気管に入って咳き込んだ。頭もなんか、ぐわんぐわんしてる。
 ヘタれる身体に鞭打って立ち上がろうとしたら、ふいに影が降ってきた。
 顔を上げれば、一年が俺を見下ろしている。目が完全に据わってる。
 側頭部に衝撃がきて、激痛が走る。回し蹴りとかドラマかよ。脳震盪ヤバイ。
 もう駄目だ。終わった。
 俺が動けない間に何度も腹を蹴られる。息もまともにできない。肺痛ぇ。変な音した。絶対肋逝ったな。
 ようやく、蹴るのをやめてくれた。痛くて指一本も動かねぇ。
 死にたくないな。謝ったら許してくんねぇかな。
「ッ……ごめん、なさい」
 しゃべったら肺が痛かった。マジでこれ以上は止めてくんないかな。
 不意に頭を撫でられる。許してくれたのか?
「センパイ、俺たちの出会い覚えてますかー。あれは五月でしたね。廊下歩いてて、対向してきたセンパイと目が合いましたねー。まあ、センパイは照れ隠しなのかすぐに目を逸らしちゃったんだけど」
 やっぱりコイツが何言ってるか解んない。そんなんで覚えてるわけないだろ。
「その後も何度も目が合いましたね。いっつもセンパイから逸れちゃうけど」
 コイツおかしいよ。やっぱおかしい。
「センパイ、付き合ってくれますか?」
 そって腹を撫でられる。ぞわっと鳥肌が立った。
 頷くと一年はにっこりと笑って、腹から手を離す。
「じゃあセンパイ、病院行きましょうねー」
 言われて、抱えられる。どさくさに紛れてキスされてケツ揉まれた。
 もう俺マジで終わったわ。
2012.02.26


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