3 佐藤は息を吐き、自身の手元を見る。これは佐藤の癖かもしれない、と大鳥は思った。 「信じてもらえないかもしれないから、構えずに聞いてください」 左右の親指を擦り合わせながら、佐藤は抑揚のない声で言う。 「俺と大鳥さんは、俺が小さい頃に逢ってるんです。同じ研究室の被験体でした」 ぶっ飛んだ内容に、大鳥はめまいがした。 「俺たち被験体は、頭や身体をいじくりまわされて、使えなくなったら捨てられていきました。そこに、味方なんてだれも居ないんです。同じ被験体はライバルみたいなもんで、生きるのに馴れ合いなんてものも不必要ですから」 遠くの空を見つめ、佐藤は続ける。 「そんな中、あなただけは話しかけてきてくれました。すごく優しくしてくれました」 昔を思い出して懐かしんでいるのか、目を細めて嬉しそうに佐藤は語る。 「四神はご存じですか? 東は青龍、南は朱雀、西は白虎、北は玄武。研究室は4つに別れてて、四神の名前で呼ばれていました。俺達に名前は数字しかなかったので、貴方は朱雀にいたこともあり、貴方の事を朱雀と呼んでました」 佐藤は黙って聞いている大鳥をチラリと一瞥し、また続ける。 「でもある日。何か起こったのか、俺達は研究室の記憶を消され――いや、改竄され、表に出されました。そして俺は一年前にそれを思い出しました。信じられませんよね」 佐藤は真っ直ぐ大鳥を見つめ、言った。 大鳥は返事をすることも、目を離すことも出来ず、ただ佐藤を見つめる。 「信じなくていいです。あなたにまた会えてよかった。……さようなら」 目を伏せ、また立ち去ろうとする。それをまた大鳥が止めた。 「あの、えっと……また会えないかな」 自身の発言に、大鳥は自分でビックリした。 佐藤も驚いたようにえ? と声をあげる。 「信じる信じないとか、判らないし、思い出せるかも判んないけど……って何言ってんだろ。と、とにかく、たまに会ってほしいんだ」 自分でも何を言ってるのか解らなかったが、必死に大鳥は言葉を紡いだ。 「駄目、かい?」 何も言わない佐藤に不安になって、答えを催促するように大鳥は言う。 佐藤の表情はみるみる緩み、頷いた。 「い、良いの?」 興奮したように、佐藤は確認する。それに大鳥が頷く。佐藤が勢いあまったように抱きついてきた。 2012.01.23 ← |