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 佐藤は息を吐き、自身の手元を見る。これは佐藤の癖かもしれない、と大鳥は思った。
「信じてもらえないかもしれないから、構えずに聞いてください」
 左右の親指を擦り合わせながら、佐藤は抑揚のない声で言う。
「俺と大鳥さんは、俺が小さい頃に逢ってるんです。同じ研究室の被験体でした」
 ぶっ飛んだ内容に、大鳥はめまいがした。
「俺たち被験体は、頭や身体をいじくりまわされて、使えなくなったら捨てられていきました。そこに、味方なんてだれも居ないんです。同じ被験体はライバルみたいなもんで、生きるのに馴れ合いなんてものも不必要ですから」
 遠くの空を見つめ、佐藤は続ける。
「そんな中、あなただけは話しかけてきてくれました。すごく優しくしてくれました」
 昔を思い出して懐かしんでいるのか、目を細めて嬉しそうに佐藤は語る。
「四神はご存じですか? 東は青龍、南は朱雀、西は白虎、北は玄武。研究室は4つに別れてて、四神の名前で呼ばれていました。俺達に名前は数字しかなかったので、貴方は朱雀にいたこともあり、貴方の事を朱雀と呼んでました」
 佐藤は黙って聞いている大鳥をチラリと一瞥し、また続ける。
「でもある日。何か起こったのか、俺達は研究室の記憶を消され――いや、改竄され、表に出されました。そして俺は一年前にそれを思い出しました。信じられませんよね」
 佐藤は真っ直ぐ大鳥を見つめ、言った。
 大鳥は返事をすることも、目を離すことも出来ず、ただ佐藤を見つめる。
「信じなくていいです。あなたにまた会えてよかった。……さようなら」
 目を伏せ、また立ち去ろうとする。それをまた大鳥が止めた。
「あの、えっと……また会えないかな」
 自身の発言に、大鳥は自分でビックリした。
 佐藤も驚いたようにえ? と声をあげる。
「信じる信じないとか、判らないし、思い出せるかも判んないけど……って何言ってんだろ。と、とにかく、たまに会ってほしいんだ」
 自分でも何を言ってるのか解らなかったが、必死に大鳥は言葉を紡いだ。
「駄目、かい?」
 何も言わない佐藤に不安になって、答えを催促するように大鳥は言う。
 佐藤の表情はみるみる緩み、頷いた。
「い、良いの?」
 興奮したように、佐藤は確認する。それに大鳥が頷く。佐藤が勢いあまったように抱きついてきた。
2012.01.23


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