ss | ナノ





 あれから数日、大鳥は佐藤のことをずっと思い出そうとしていた。
 あんなに悲しそうな顔をしていたんだ。何処かで会っているはずだ。だが、全く思い出せない。佐藤も朱雀も玄武も、思い出せない。
 会社からの帰り道、あの公園をチラリと覗く。あのベンチに、佐藤は座っていた。
 また怪我をしている。
「佐藤くん」
 名前を呼ぶと泣きそうな顔で、佐藤は大鳥を見た。「逢いたいとずっと思っていたから、幻聴かと思った」
 嬉しそうに、目を細める表情は子供のそれではない。
 整ってはいるがそこら辺にいそうな顔が、息を飲むほど綺麗に見えた。逆光でもないのに眩しく感じられ、大鳥は目を細める。
「忘れてくれ、なんて言ったけど、本当は覚えていて欲しかった。矛盾しているな」
 自嘲するように言う佐藤に、大鳥はどうしたら良いのかわからなかった。
 口を開きかけて、止めた。思い出せもしないのに、慰めるようなことをしても嘘のような気がする。
 結局何も言えなくて、大鳥は佐藤の傷の手当てを始めた。
 滲みるのか、時折ピクリと震え顔が顰められる。
「す……大鳥さん、ありがとう」
 佐藤はそう言って立ち上がった。
「もうこれで本当に、最後。俺のことは忘れてください」
 それだけ言うと頭を下げ、立ち去ろうとする。その腕を大鳥は掴んでいた。
 何故掴んだのかは、自分でも解らない。
「あの、えっと……君と会った時の事、話してくれないか。何か、思い出すかもしれない」
 大鳥が言うとまたベンチに座った。大鳥も佐藤の隣に座る。



以下広告↓
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -