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眩しいほどに


 まだまだ寒い日が続く中、大鳥(おおとり)は小さな公園のベンチで昼食を摂っていた。
 今日はいい天気だから外で食べよう、と意気込んで来たものの今は後悔している。ただ、同僚の誘いを断って来た手前、オフィスに戻って食べるわけにはいかない。
 あーさむい。
 缶コーヒーで暖を取るが、全く効果はない。
 ふと出入口に目をやると、やけに汚れた学ラン姿の少年が公園に入ってきた。
 怪我でもしているのか、足を引き摺っている。よく見ると口端は切れて赤くなり、目元が赤黒く腫れていた。それに眼帯もしている。
 喧嘩だろうか。 若いなぁ。関わりたくないな、と思う自分に大鳥は苦笑する。
 少年はこちらに来ると、大鳥が座っているベンチの端に座った。
「あの、えっと……大丈夫?」
 流石に放っては置けなくて、大鳥は話し掛けた。
 少年は大鳥を一瞥すると鼻で笑い、別に、と答えて自分の手元を見る。
「病院、言った方がいいんじゃないかい?」
「これくらい大丈夫だ。……コレだから、ただの人間は。」
 病院を奨めると少年は、溜め息混じりに言葉を返した。
「くっ……自己再生が遅い。これも、奴等の能力か」
 空を睨み付け、少年はブツブツと言う。
 少年が何を呟いているのか、大鳥にはさっぱり解らなかった。
 今の若い子は何言ってるのか解らない。
 それにしても、怪我が痛そうだな。
「君、ちょっとここで待ってなさい」
 少年に言うと大鳥は公園から出ていく。そのままコンビニに向かった。
 コンビニに着くと消毒液や絆創膏、包帯などを買って公園に戻る。
 少年は言われた通りに待っていた。それを見て大鳥は安堵し、水道でハンカチを少し濡らして少年の元に戻る。
「少し滲みるよ」
 一言断ると濡れたハンカチで目元の傷に当てた。
 少年は一瞬息を詰め、身体を堅くする。
「……ありがとう、ございます。……あの、名前は?オレはえっと、佐藤雄也(さとうゆうや)です」
 手当てをしていくと、少年――佐藤がボソボソと言う。大鳥は一瞬何を言っているのかわからなかったのか、瞬きを数回してから漸く名乗った。
「僕は大鳥明徳(あきのり)」
 大鳥が名乗ると佐藤は目を見開き、肩を掴む。
「朱雀! 朱雀なんだろ? オレだ、玄武だ」
 大鳥は口をポカンと開け、佐藤を見る。
 すざく? いや、違う。僕は大鳥明徳だ。げんぶ? 佐藤くんだって今、佐藤雄也だって名乗ったじゃないか。
 大鳥は意味が解らず、頭を必死に回転させたがさっぱり解らない。
「フッ……忘れてしまっているのか」
 悲しそうに目を細め、佐藤は自身の手元に目を落とした。
 忘れている? 彼と会ったのは、初めてのはずだ。大鳥は必死に思い出そうとしたが、思い出せない。
「いや、仕方ない。気にするな」
 口許に微笑を浮かべ、少し目を伏せて佐藤は言う。
「変なことを言ってすまなかった。手当て、感謝する。……俺のことは忘れてくれ」
 急に立ち上がりそれだけ言うと、公園から出ていってしまった。
 なんだったんだ。
 本当に、忘れてしまっているのかもしれない。年のことを考えると、あり得なくもない。
 大鳥はしばらく公園の出入口を見つめて動けなかった。



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