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アンバランスなぼくら


 チェック柄のスカートからのびる足は筋肉質。胸元はぺったんこ。やけに広い背中と肩幅。顔はお世辞にも綺麗とは形容し難い。おまけに口元は少し青い。とても女性のそれとは思えない格好をしているのは、お気づきだとは思うが男性だ。
 彼が着ているコスチュームは『まじかる☆くるりっ!』という――火曜日二六時半頃から放送されている魔法少女モノ――アニメの主人公吉良沢来莉(きらさわくるり)が着ている制服だ。
 一般人から見たら女装にしか見えない格好で、駅構内を歩く姿は異様だ。道行く人にさまざまな視線を向けられている。それを気にすることもなく、真っ直ぐ見つめ歩いていく。むしろ、その視線を歓迎しているようにも見える。
 彼――平塚卓巳(ひらつかたくみ)は俗に言うオタクだ。コスプレイヤーでもある卓巳は、度々この様に好きなキャラクターのコスプレをしている。好きなキャラクターが女性キャラの方が多いからか、必然的に女性キャラに扮することが多い。
「くーるりんっ」
 後ろから肩を叩かれ、卓巳は振り返る。頬に人差し指が食い込んだ。卓巳は不愉快そうに眉間に皺を寄せ、その手を叩き落とす。
「佐久間、その指折るぞ」
 卓巳は肩を叩いた男――佐久間葛(さくまつづら)を睨む。
「折角、くるりんコスしてんだからそんな事言わないでくださいよ」
 へらりと笑い、佐久間は言う。
 佐久間という男は、卓巳と一緒にいることが不思議な青年だ。髪は金髪に染められ、耳にはピアスが幾つも開けられている。着ているブレザー制服―佐久間の制服は本物だ―は、着崩されている。チャラ男、と言う言葉が似合う男だ。
「なんか、制服デートみたいっすね」
 ニヤニヤと笑みを浮かべ、佐久間は言う。
「馬鹿じゃないのか」
 佐久間に一瞥をくれてやり、卓巳は鼻先であしらった。
「男同士でデートもクソもあるか」
 ふん、と顔を背ける。
 ――デートとは、恋愛関係や恋愛関係に進みつつある二人が各自の家以外で会うこと。
 辞書の内容をそのまま説明するように、佐久間は得意気に言う。
「俺たちは付き合ってるんで、デートで間違いないっす」
 だらしなく緩められた口許を引き締めることもせず、佐久間は卓巳の手に自分のそれを絡めて引っ張る。
「今日はアニメ専門店デートすよ」
 デートを強調するように何度も言われ、卓巳は溜め息を吐いた。
「わかったから手を放せ」
 卓巳が腕を少し引くとあっさりと佐久間は放す。
「じゃあ、お家帰ったら手を繋いでもいいすか?」
 卓巳より小さな背を活かし、上目遣いで佐久間は小首を傾げる。男がやっても気持ち悪い、と卓巳が言っても佐久間はそれを辞めようとしない。
「……ああ」
 仕方ないな、と卓巳は頷いた。
2011.10.06


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