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生死

※グロテスク・ネクロフィリア・気持ち悪い表現有り

 天才芸術家、画家である彼の肩書きだ。
 天才、とはよく言ったものだ。彼は奇人、だと私は思う。
 今もドライアイスまみれの部屋の中で、キャンバスに筆を叩きつけている。
「おい、完成した絵をこんなところに置くなって言ってるだろう」
 傷が付いたら値が下がるじゃないか、と言ったところで彼が聴くことは無い。
 彼は完成した絵には興味が無い。完成したら、その絵は棄てるようにその辺へと投げられる。
 私の仕事は彼の絵を高値で売ることだが、彼はそれにも興味が無いらしい。
「あぁ、君か。それで、アレは持ってきてくれたかい?」
 私が来たことに気付くと作業を止め、近づいてくる。
 彼から頼まれていた薔薇を彼に渡し、壁際にもたれた。
 これから始まるであろう"儀式"は、見ていてとても気持ちのよいものではない。むしろ酷く気持ちが悪い。
 真紅の薔薇をうっとりと見つめ、彼は部屋の中央へと移動した。
 部屋の中央には、透明なガラスの棺桶がある。その中には、四十代後半くらいの男の屍が眠っている。胸の前で手を組み、安らかに眠っている。
 彼はそれの腹に手を当て、腹を撫でた。腹は不自然に膨れ上がっている。
「愛してるよ」
 愛を囁き、服の捲り男の腹を出す。不自然に膨らんだそれは何かが詰め込まれ、そして縫合されている。糸を丁寧に切り、腹を左右に割る。とたん彼は薔薇を抱えていない方の手で頭を掻き毟った。
「君は僕を愛してないのかい? 僕はこんなにも愛しているのに!」
 彼は激昂し、男を怒鳴る。怒鳴ったところで、男は応えることはない。
「僕は愛してるよ。どうして意地悪するんだい? どうして? ねえ?」
 男の腹の中から枯れた薔薇を床に棄てながら、問いかける。もちろん返事は無い。あるわけがない、男は死んでいるのだから。
 殺したのは私なのだから。正確には私の兵隊なのだが、私もその場にいたのだから殺したのだ。
 彼が男を欲しいと言って、男を連れてこないと絵を描かないと言うから仕方なく彼の言われた通り毒林檎で殺した。毒林檎にガラスの棺桶、そしてネクロフィリアだなんてどこぞの御伽噺のようだ。
 彼は男にキスをして、また腹に私が持ってきた薔薇を詰める。詰め終わると腹の上で自慰行為をし、大量に精液を薔薇の上に蒔く。
 静かなアトリエの中で彼の息だけが、荒く響く。
「今度は僕たちの子をつくってね」
 言ってまた縫合する。そしてまた十月十日待つのだ。彼は、男と子供を作ろうとしているのだ。出来るわけがないのに、この"儀式"を五年も続けている。
 彼は男の額にキスをして、またキャンバスに向かった。
「それ、完成はいつ?」
「今日中には出来るよ。タイトルは『生死』だ」
 何事も無かったのように、キャンバスに筆を叩きつける。
2011.05.21


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